電子機器や電気製品が私たちの生活に欠かせないものとなる中で、「RoHS指令」という言葉を耳にする機会が増えています。特に、RoHS指令が改正された「RoHS2指令」との違いについて、疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。本記事では、RoHSとRoHS2の違いについて、初心者の方にも分かりやすく、そして詳しく解説していきます。
RoHSとRoHS2の基本的な違いとは?
RoHS指令(Restriction of Hazardous Substances Directive)は、電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用を制限するためのEU(欧州連合)の指令です。この指令の目的は、製品に含まれる有害物質が、製造過程や廃棄過程で環境や人体に与える影響を軽減することにあります。 この有害物質のリストや対象製品の範囲が、RoHSからRoHS2へと改正される際に変更されました。
RoHS指令は、当初、特定の6物質(鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE))の使用を制限していました。しかし、科学技術の進歩や環境問題への意識の高まりを受けて、より広範な物質を対象とし、規制を強化する必要が出てきました。そこで、RoHS指令は2013年1月3日にRoHS2指令(指令2011/65/EU)として改正・施行されたのです。
RoHS2指令の大きな変更点の一つは、規制対象物質の追加と、対象となる電気・電子機器の範囲の拡大です。これにより、より多くの製品がRoHS指令の規制を受けることになり、メーカーは製品の安全性をさらに高めることが求められるようになりました。
- RoHS指令:6物質(鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDE)
- RoHS2指令:追加物質あり、対象製品範囲拡大
RoHS2における追加・変更された規制物質
RoHS2指令では、RoHS指令で定められていた6物質に加えて、新たな有害物質の使用制限が追加されました。これにより、製品に含まれる有害物質に対する管理がより厳格化されています。具体的には、フタル酸エステル類4物質(DEHP、DBP、BBP、DIBP)が、2019年7月22日以降、一定の条件付きで規制対象となりました。
これらのフタル酸エステル類は、プラスチックを柔らかくするために使われる可塑剤として広く利用されてきましたが、内分泌かく乱作用(ホルモンバランスを崩す作用)が懸念されており、環境や人体への影響が指摘されてきました。そのため、RoHS2指令では、これらの物質の使用についても制限が設けられたのです。
さらに、RoHS2指令では、将来的に規制対象となる可能性のある物質についても、継続的な監視と評価が行われています。これは、科学的知見の進展に合わせて、指令が柔軟に見直されていくことを示しています。
| 物質 | RoHS指令 | RoHS2指令 |
|---|---|---|
| 鉛 (Pb) | ○ | ○ |
| 水銀 (Hg) | ○ | ○ |
| カドミウム (Cd) | ○ | ○ |
| 六価クロム (Cr6+) | ○ | ○ |
| ポリ臭化ビフェニル (PBB) | ○ | ○ |
| ポリ臭化ジフェニルエーテル (PBDE) | ○ | ○ |
| フタル酸ジ-2-エチルヘキシル (DEHP) | × | ○ (条件付き) |
| フタル酸ジブチル (DBP) | × | ○ (条件付き) |
| フタル酸ブチルベンジル (BBP) | × | ○ (条件付き) |
| フタル酸ジイソブチル (DIBP) | × | ○ (条件付き) |
RoHS2における対象製品範囲の拡大
RoHS2指令におけるもう一つの大きな変更点は、対象となる電気・電子機器の範囲が拡大されたことです。RoHS指令では、主に大型家電やIT機器などが対象でした。しかし、RoHS2指令では、これらに加えて、より広範な製品群が規制の対象に含まれるようになりました。
具体的には、以下のような製品群が新たにRoHS2指令の対象となりました。
- 医療機器(2014年7月22日~)
- 監視・制御機器(2014年7月22日~)
- 玩具(2019年7月22日~、フタル酸エステル類規制)
- その他、これまで対象外だった小規模な電気・電子機器
この対象範囲の拡大により、より多くの製造業者がRoHS2指令への対応を求められることになり、製品の設計・製造段階から有害物質の管理が不可欠となりました。これにより、製品の安全性向上だけでなく、廃棄時の環境負荷低減にも繋がることが期待されています。
RoHS2におけるCEマーキングと適合宣言
RoHS2指令では、製品が指令の要求事項を満たしていることを示すために、CEマーキングの表示と適合宣言書の作成が義務付けられています。CEマーキングは、製品がEUの安全基準を満たしていることを示すマークであり、RoHS2指令への適合もその一部として含まれます。
適合宣言書は、製造業者が自社の製品がRoHS2指令に適合していることを宣言する書類です。この書類には、製品名、製造者名、適用された指令、使用された適合規格などが記載されており、監督官庁からの要求があった際には提示する必要があります。
これらの対応は、製品をEU域内で販売・流通させるために非常に重要です。 CEマーキングがない、または適合宣言書が適切に作成されていない場合、製品はEU域内で販売できなくなる可能性があります。
RoHS2における除外項目と適用除外
RoHS2指令においても、特定の用途や製品については、有害物質の使用が除外される「適用除外」が認められています。これは、代替技術が存在しない場合や、他の法規制との兼ね合い、または公共の安全に関わる場合など、やむを得ない状況を考慮したものです。
例えば、特殊な産業機器や、一部の医療機器、軍事用途の製品などでは、特定の有害物質の使用が一時的に免除されることがあります。これらの適用除外リストは、EUの官報で公開されており、定期的に見直されています。
製品が適用除外に該当するかどうかは、製品の用途や技術的な側面などを考慮して判断する必要があります。そのため、製造業者は常に最新の適用除外リストを確認し、自社製品が該当するかどうかを慎重に評価することが求められます。
適用除外の例:
- 代替技術が存在しない特殊な部品
- 公衆衛生、安全、または環境保護に不可欠な機器
- 軍事用途の製品
RoHS2とその他の環境規制との関係
RoHS2指令は、EUにおける環境規制の一つですが、他にもREACH規則(化学物質の登録、評価、認可、制限)など、関連する様々な環境規制が存在します。これらの規制は、それぞれ異なる目的や対象範囲を持っていますが、電気・電子機器の製造や流通においては、相互に関連し合っています。
例えば、REACH規則では、より広範な化学物質について、その安全性評価や情報提供が求められています。RoHS2指令で規制されている物質の中には、REACH規則でも対象となっているものがあります。そのため、製造業者は、RoHS2指令への対応だけでなく、他の環境規制への適合も同時に考慮する必要があります。
これらの複数の規制に適合させるためには、サプライチェーン全体での協力が不可欠です。原材料の調達から製品の製造、そして最終的な廃棄に至るまで、環境への配慮が求められます。
RoHS2指令の今後の展望
RoHS2指令は、環境保護や消費者の健康を守るための重要な規制ですが、技術の進歩や新たな環境問題の発生を受けて、今後も改正されていく可能性があります。EUは、持続可能な社会の実現に向けて、化学物質管理を強化する方針を打ち出しており、RoHS指令もその一環として、より厳格な規制が導入されることが予想されます。
将来的には、さらに多くの有害物質が規制対象に追加されたり、適用除外の範囲が見直されたりする可能性があります。また、製品のライフサイクル全体での環境負荷を低減するための、新たな要求事項が導入されることも考えられます。
そのため、製造業者は、常に最新のRoHS指令の動向を把握し、将来的な規制変更に備えて、製品開発やサプライチェーン管理体制を継続的に見直していくことが重要です。
まとめると、RoHSとRoHS2の最も大きな違いは、規制対象物質の追加と、規制対象となる電気・電子機器の範囲の拡大です。これにより、より多くの製品が環境規制の対象となり、製造業者にはより一層の注意と対策が求められています。これらの規制を理解し、適切に対応することは、製品をグローバルに展開する上で不可欠と言えるでしょう。