「腫瘤(しゅりゅう)」と「腫瘍(しゅよう)」、どちらも体の中に「できもの」ができることを指す言葉ですが、実は意味合いが少し違います。この二つの言葉の 腫瘤 と 腫瘍 の 違い を正しく理解することは、自分の体の状態を知る上でとても大切なのです。
「腫瘤」とは? 体にできる「できもの」全般を指す広い言葉
まず、「腫瘤」という言葉から見ていきましょう。腫瘤とは、文字通り「腫(は)れた塊(かたまり)」のこと。つまり、体の中で何らかの原因で異常に大きくなった部分全般を指します。これは、病気によるものもあれば、そうでないものもあります。たとえば、蚊に刺された跡が腫れるのも、一時的な腫瘤と言えるでしょう。しかし、医学的な文脈では、もう少し注意が必要な「できもの」を指すことが多いです。 健康状態を把握するために、腫瘤の存在に気づいたら専門家への相談が推奨されます。
腫瘤には、以下のようなものがあります。
- 炎症による腫れ(例:リンパ節の腫れ)
- 外傷による腫れ(例:打撲による内出血の塊)
- 良性の腫瘍
- 悪性の腫瘍
このように、腫瘤という言葉は、原因や性質を特定せずに、単に「大きくなった部分」という広い意味で使われます。例えるなら、「果物」という言葉で、りんごもみかんもバナナも全部まとめて呼ぶようなイメージです。
「腫瘍」とは? 細胞の異常な増殖による「できもの」
一方、「腫瘍」は、もっと限定的な意味合いを持つ言葉です。腫瘍とは、体の中の細胞が、本来の体のルールを無視して、無秩序に増え続けてしまうことによってできた「できもの」のこと。これは、病気によるものだと考えられます。
腫瘍は、大きく分けて二つの種類があります。
- 良性腫瘍 :悪さをしない腫瘍。周りの組織に広がることもなく、体中に散らばる(転移する)こともありません。大きさは大きくなることもありますが、命に関わることはほとんどありません。
- 悪性腫瘍 :いわゆる「がん」のこと。周りの組織に染み込むように広がり、血管やリンパ管に乗って体の他の場所に移動して、そこで増殖する(転移する)性質があります。
腫瘤という大きな枠の中に、腫瘍という「細胞が勝手に増えてできたもの」が含まれる、という関係性だと考えると分かりやすいかもしれません。
腫瘤と腫瘍の「違い」をさらに掘り下げてみよう!
では、具体的にどのような点が「腫瘤」と「腫瘍」の違いとなるのでしょうか?
まず、原因です。
| 原因 | 腫瘤 | 腫瘍 |
|---|---|---|
| 細胞の異常な増殖 | 必ずしもそうとは限らない(炎症や外傷でも起こる) | 細胞が異常に増殖したもの |
次に、性質です。
- 腫瘤 :原因によって良くなったり、そのままだったり、悪化したりと様々です。
- 腫瘍 :良性であれば増殖のスピードは比較的ゆっくりで、転移はしません。悪性(がん)の場合は、増殖が早く、転移する可能性があります。
「腫瘤」は、できものの「見た目」や「状態」を広く指す言葉であり、「腫瘍」は、そのできものが「細胞の異常な増殖」によってできている、という「原因」や「性質」に焦点を当てた言葉 と言えます。
「良性腫瘍」について
良性腫瘍は、先ほども少し触れましたが、悪さをしない腫瘍のことです。大きさは大きくなることがありますが、体中に広がる(転移する)ことはありません。例えば、皮膚にできる「ほくろ」も、医学的には良性腫瘍の一種と考えることができます。また、体の内臓にできる「線維腫」や「脂肪腫」なども良性腫瘍の仲間です。
良性腫瘍の特徴をまとめると以下のようになります。
- 増殖のスピードは比較的ゆっくり。
- 周りの組織を壊したり、染み込んだりしない。
- 転移しない。
- 大きくなりすぎると、周りの臓器を圧迫して症状が出ることがある。
良性腫瘍であっても、自覚症状がない場合もあれば、痛みや圧迫感などの症状を引き起こす場合もあります。そのため、たとえ良性であっても、医師の診断を受けることが大切です。
「悪性腫瘍(がん)」について
悪性腫瘍、つまりがんは、良性腫瘍とは異なり、非常に注意が必要です。悪性腫瘍は、周りの組織に染み込むように広がる(浸潤)性質があり、さらに血管やリンパ管に入り込んで、体の遠く離れた場所に移動して増殖する(転移する)性質を持っています。
がんには、様々な種類があります。
- 癌腫(がんしゅ) :上皮細胞から発生したがん。例:肺がん、胃がん、大腸がんなど。
- 肉腫(にくしゅ) :骨や筋肉、脂肪などの結合組織から発生したがん。例:骨肉腫、脂肪肉腫など。
- 白血病・リンパ腫 :血液やリンパ液に関わる細胞から発生したがん。
がんの治療においては、早期発見・早期治療が非常に重要です。進行したがんでは、治療が難しくなることもあります。
「炎症」による腫瘤
腫瘤の中には、細胞の異常な増殖ではなく、体の「炎症」によって起こるものもあります。炎症とは、細菌やウイルスなどの異物から体を守るために、免疫細胞が集まってくる反応のことです。この炎症が起こると、その部分が赤く腫れたり、熱を持ったり、痛んだりすることがあります。
例えば、
- 喉が痛くてリンパ節が腫れる
- 虫刺されがかゆくて赤く腫れる
- 傷口が化膿して腫れる
これらはすべて、炎症による腫瘤の例です。
炎症による腫瘤は、原因となる感染症や外傷が治れば、自然に小さくなることが多いのが特徴です。しかし、長引く場合や、痛みが強い場合は、医療機関を受診することが大切です。
「転移性腫瘍」とは?
「転移性腫瘍」という言葉も聞かれることがあるかもしれません。これは、体のある場所で発生したがん(原発巣)が、血液やリンパの流れに乗って別の場所に移動し、そこで増殖してできた腫瘍のことです。つまり、もともとはがんだったものが、別の場所に「移った」状態です。
転移性腫瘍は、もともとのがんと同じ種類の細胞からできています。例えば、肺がんで発生したがん細胞が肝臓に飛んで増殖した場合、それは「肝臓の転移性肺がん」と呼ばれます。この場合、肝臓そのものががんになったのではなく、肺がんが肝臓に「転移」したと考えられます。
転移性腫瘍があると、治療はより複雑になります。そのため、がんの診断においては、転移の有無を正確に把握することが非常に重要になります。
「偽腫瘍」という言葉も
さらに、医学の世界では「偽腫瘍(ぎしゅよう)」という言葉も使われることがあります。これは、見た目や触った感じは腫瘍のように見えるけれど、実際には腫瘍ではないものを指します。
偽腫瘍の例としては、
- 過形成(か-けい):細胞の数が一時的に増えたもの。
- 肉芽腫(にくがしゅ):炎症反応の結果できる塊。
- 嚢胞(のうほう):液体が溜まった袋状のもの。
などが挙げられます。これらの状態は、腫瘍とは異なりますが、医師はこれらと腫瘍を見分けるために、精密な検査を行います。
この「偽腫瘍」という言葉も、「腫瘤」という広い概念の一部と捉えることができます。見た目は腫瘤でも、その中身が腫瘍ではない、という状況です。
このように、「腫瘤」と「腫瘍」という言葉は、それぞれ広い意味と狭い意味を持っており、その違いを理解することは、自分の体の状態を正確に理解する上で非常に役立ちます。もし、体に気になる「できもの」を見つけた場合は、自己判断せず、必ず医師に相談するようにしましょう。