「痴呆」と「認知症」、この二つの言葉、何となく似ているけれど、具体的にどう違うのか、はっきり説明できますか?実は、 痴呆 と 認知 症 の 違い は、言葉の使われ方と、その背景にある考え方にあります。
言葉の変遷と捉え方の変化
昔は「痴呆」という言葉が一般的に使われていましたが、この言葉には「愚か」「劣っている」といったネガティブな響きが含まれていました。そのため、病気と向き合う方々やそのご家族にとって、精神的な負担となることがありました。そこで、より中立的で、病気そのものを指し示す言葉として「認知症」が使われるようになりました。
この言葉の変更は、単なる言い換えではなく、病気に対する社会全体の認識を変えるための重要な一歩だったのです。
- 「痴呆」:かつて使われていた言葉
- 「認知症」:現在一般的に使われる言葉
「認知症」という言葉は、脳の病気などによって、記憶力や判断力といった「認知機能」が低下し、日常生活に支障が出ている状態を指します。これは、本人の意思に反して起こるもので、決して本人のせいではありません。
「認知症」が選ばれる理由
「認知症」という言葉が選ばれた背景には、いくつかの理由があります。まず、先ほども触れましたが、 「痴呆」という言葉が持つ否定的なニュアンスを避けるため です。病気になった方を傷つけたり、差別したりするような言葉は使わない、という配慮が込められています。
また、「認知症」は、脳の機能が低下している状態を客観的に表す言葉です。原因となる病気は様々ですが、それらの病気によって引き起こされる「認知機能の低下」に焦点を当てています。
具体的には、以下のような機能が低下することがあります。
- 記憶力
- 判断力
- 言語能力
- 時間や場所の感覚
さらに、認知症は単一の病気ではなく、様々な原因によって起こりうる症候群(病気の集まり)であるという理解も深まりました。そのため、特定の病名ではなく、症状全体を指す「認知症」という言葉が、より包括的で適切な表現となりました。
「痴呆」という言葉が抱えていた問題点
「痴呆」という言葉は、古くから使われてきましたが、その意味合いが時代とともに問題視されるようになりました。 「痴」という漢字には「愚か」「劣る」といった意味が含まれており、病気で苦しむ方々を人間として劣っているかのように見せてしまう可能性がありました。
この言葉に縛られることで、以下のような影響が出ていました。
| 問題点 | 具体的な影響 |
|---|---|
| 差別や偏見 | 「痴呆」という言葉を聞いただけで、その人を能力が低いと決めつけてしまう。 |
| 精神的苦痛 | 病気であるご本人やご家族が、その言葉に傷つき、孤立してしまう。 |
| 医療・介護の質の低下 | 病気への誤解から、適切な治療やサポートが行き届かなくなる。 |
これらの問題点を解消し、より建設的な医療・介護を進めるために、言葉の変更が不可欠でした。
「認知症」への名称変更によるメリット
「認知症」という言葉に変わったことで、様々なメリットが生まれています。 一番大きいのは、病気に対する誤解や偏見が減り、よりポジティブな姿勢で向き合えるようになったことです。
具体的には、
- 当事者の尊厳の維持 :「認知症」という言葉は、病気の状態を客観的に示すものであり、人格を否定するものではない。
- 早期発見・早期支援の促進 :病気への抵抗感が減り、受診や相談につながりやすくなった。
- 社会全体の理解促進 :メディアや教育の場で「認知症」という言葉が使われるようになり、多くの人が関心を持つようになった。
- 医療・介護従事者の意識変化 :病気への理解が深まり、より専門的で質の高いケアを提供できるようになってきた。
このように、言葉一つで、病気への向き合い方や、社会全体の支援体制に大きな変化をもたらすことができるのです。
「認知症」を正しく理解するために
「認知症」という言葉が定着してきましたが、その意味を正しく理解することが大切です。 「認知症」は、単に物忘れがひどくなるということだけではありません。
認知症は、脳の神経細胞がダメージを受けることで起こります。そのダメージを受けた場所によって、現れる症状は様々です。
- 記憶障害 :新しいことを覚えられなくなったり、最近の出来事を忘れたりする。
- 判断力・実行機能の低下 :計画を立てて物事を進めることが難しくなったり、複雑な判断ができなくなったりする。
- 言語障害 :言葉が出てこなかったり、相手の言っていることが理解できなかったりする。
- 見当識障害 :いつ、どこにいるのかが分からなくなる。
- 性格の変化 :以前とは違う性格になったように見えたり、感情の起伏が激しくなったりする。
これらの症状によって、日常生活を送ることが難しくなります。例えば、服を着替える順番が分からなくなったり、火の消し忘れが増えたり、人とのコミュニケーションがうまくとれなくなったりすることがあります。
「痴呆」から「認知症」への移行とその影響
「痴呆」から「認知症」への名称変更は、医学界だけでなく、社会全体で進められてきた取り組みです。 この移行は、単なる言葉の置き換えにとどまらず、病気に対する私たちの「考え方」を大きく変えるきっかけとなりました。
以前は、「痴呆」という言葉から、病気になった人を「かわいそうな人」「何もできない人」と捉えがちでした。しかし、「認知症」という言葉を使うことで、
- 脳の病気による機能低下であり、本人に責任はない
- 適切なサポートやケアで、その人らしい生活を支えることができる
という認識が広まりました。これにより、
- 医療・介護の専門性の向上 :病気への理解が深まり、より効果的な治療法やケア方法が開発されてきた。
- 地域での支え合いの強化 :認知症カフェやサポーター養成講座など、地域住民が認知症の方を支える活動が活発になった。
- 研究開発の促進 :原因究明や治療法開発に向けた研究への関心が高まった。
このように、名称変更は、認知症の方々がより生きやすい社会を作るための、重要な一歩だったのです。
「痴呆 と 認知 症 の 違い」について、言葉の歴史的背景や、それがもたらした社会的な影響を理解することは、病気への正しい理解につながります。 大切なのは、病気そのものではなく、病気と向き合う人々の尊厳を守り、支え合っていくことです。