事業を始めるにあたって、まず悩むのが「個人事業主」として始めるか、「株式会社」を設立するかという点です。この「個人事業主と株式会社の違い」を理解することは、あなたのビジネスの将来を大きく左右する重要な決断となります。それぞれのメリット・デメリットをしっかり把握し、自分に合った形態を選びましょう。
個人事業主と株式会社:一番の違いは「信頼性」と「責任範囲」
個人事業主と株式会社の最も大きな違いは、事業主と事業の法人格が同一か、別かという点にあります。個人事業主は、事業主自身が事業そのもの。一方、株式会社は、事業主とは別に「法人」という新しい「人格」を作り出し、その法人格が事業を行います。 この法人格の有無が、社会的な信頼度や、万が一の際の責任の範囲に大きく影響してきます。
個人事業主の場合、事業で得た利益はすべて事業主個人の所得となり、税金も所得税として計算されます。借金なども事業主個人が負うことになり、事業がうまくいかなかった場合は、個人の財産を失うリスクもあります。しかし、設立の手続きが簡単で、すぐに事業を始められるというメリットがあります。
対して株式会社は、法人格があるため、社会的な信用度が高い傾向にあります。また、株式会社の負債は原則として会社の財産でまかなわれるため、事業主個人の財産が直接的に危険にさらされることは少なくなります。ただし、設立には手間と費用がかかり、税金も法人税が適用されるなど、個人事業主とは異なるルールが適用されます。
| 項目 | 個人事業主 | 株式会社 |
|---|---|---|
| 法人格 | なし | あり |
| 責任範囲 | 事業主個人(無限責任) | 会社財産(有限責任) |
| 信用度 | 比較的低い | 比較的高い |
開業・設立手続きの簡単さ
個人事業主として開業するのは、実はとても簡単です。「開業届」という書類を税務署に提出するだけで、すぐに事業を始めることができます。特別な資格や多額の資金も必要ありません。まるで、お店を開くような感覚で、気軽にスタートできるのが魅力です。
一方、株式会社を設立するには、いくつかのステップを踏む必要があります。まず、会社の定款(会社のルールブックのようなもの)を作成し、それを公証役場で認証してもらう必要があります。その後、資本金の払い込みや役員選任、そして法務局での登記申請といった手続きが必要です。これらの手続きには、時間と費用がかかります。
- 個人事業主:開業届の提出のみ
- 株式会社:定款作成・認証、資本金払込、役員選任、登記申請など
このように、個人事業主はスピーディーに事業を始めたい場合に、株式会社はしっかりとした基盤を作りたい場合に適していると言えるでしょう。
税金の違い:所得税 vs 法人税
個人事業主と株式会社では、かかる税金の種類が大きく異なります。個人事業主は、事業で得た利益に対して「所得税」が課税されます。所得税は、利益が大きくなるほど税率が高くなる「累進課税」という仕組みになっています。
一方、株式会社は、事業で得た利益に対して「法人税」が課税されます。法人税の税率は、所得によって変動しますが、個人事業主の所得税よりも税率が低い場合があります。また、株式会社は役員報酬を支払うことで、その分を会社の経費として計上でき、税金の負担を調整できるというメリットもあります。
- 個人事業主:所得税(累進課税)
- 株式会社:法人税(一定の税率)、役員報酬による経費計上可能
どちらの税率がお得かは、事業の規模や利益によって変わってくるので、税理士さんに相談するのがおすすめです。
資金調達のしやすさ
事業を拡大していく上で、資金調達は非常に重要です。個人事業主の場合、資金調達は主に金融機関からの融資や、自己資金、友人・知人からの借入に頼ることになります。信用力が個人の名義にかかるため、融資を受けるのが難しい場合もあります。
対して株式会社は、法人格があるため、個人事業主よりも金融機関からの信用を得やすく、融資を受けやすい傾向があります。また、株式会社は株式を発行して、投資家から資金を調達するという方法もあります。これは、個人事業主にはできない方法です。
- 金融機関からの融資
- 増資(株式発行による資金調達)
- 補助金・助成金の活用
このように、資金調達の選択肢の幅広さも、株式会社の大きなメリットと言えるでしょう。
社会的信用度とイメージ
一般的に、株式会社は個人事業主に比べて社会的信用度が高いとされています。これは、株式会社が法的に設立され、一定の資本金があることが前提となっているためです。取引先や顧客からの信頼を得やすく、大きな契約を取りやすいというメリットがあります。
また、企業イメージも重要です。株式会社という形態をとることで、しっかりとした経営基盤を持っているという印象を与えることができ、優秀な人材を採用しやすくなることもあります。個人事業主でも優秀な人材は集まりますが、規模の拡大や将来性を考える上で、株式会社という形が有利に働く場面もあります。
- 株式会社:社会的信用度が高い、企業イメージが良い、人材採用に有利
- 個人事業主:信用度は事業実績に依存、小回りが利きやすい
もちろん、個人事業主でも実績を積めば高い信用を得ることは可能です。
事業承継のしやすさ
将来的に事業を次の世代に引き継ぎたい、あるいは売却したいと考えた場合、株式会社の方が有利になることがあります。株式会社は、株式という形で事業の所有権を移転させることができます。これにより、スムーズな事業承継が可能になります。
個人事業主の場合、事業そのものを譲渡することになるため、相続や売却の手続きが複雑になりがちです。事業で使用している資産や権利などを個別に引き継ぐ必要があり、時間も手間もかかります。そのため、事業承継を視野に入れている場合は、株式会社として設立しておく方が、将来的にスムーズに進めることができます。
- 株式譲渡による事業承継
- M&A(企業の合併・買収)のしやすさ
事業を長く続けたい、あるいは拡大して社会に貢献したいと考えるなら、事業承継のしやすさも考慮に入れると良いでしょう。
結局のところ、「個人事業主と株式会社の違い」を理解した上で、ご自身の事業の目的や将来のビジョンに合った形態を選択することが何よりも大切です。どちらの形態にもメリット・デメリットがありますので、焦らずじっくり検討してみてください。