「血栓症(けっせんしょう)」と「塞栓症(そくせんしょう)」、どちらも血管にまつわる怖い病気だと聞くけれど、具体的にどう違うの?と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。実は、この二つの病気は密接に関連していますが、そのメカニズムには明確な違いがあります。 血栓症と塞栓症の違いを理解することは、病気の予防や早期発見のために非常に重要です。
血栓症とは?血管の中で「固まり」ができちゃう病気
血栓症とは、血管の中で血液が固まって「血栓(けっせん)」と呼ばれる塊(かたまり)ができ、血管を詰まらせてしまう病気のことです。血栓ができる場所によって、さまざまな症状が現れます。例えば、足の血管に血栓ができると、足が腫れて痛くなる「深部静脈血栓症」という状態になることがあります。
血栓ができる原因はいくつかあります。
- 血流が悪くなること: 長時間同じ姿勢でいたり、運動不足だったりすると、血液の流れが悪くなり、血栓ができやすくなります。
- 血液が固まりやすくなること: 体質や病気、薬の影響で、血液が固まりやすくなることがあります。
- 血管の壁が傷つくこと: ケガをしたり、動脈硬化が進んだりして血管の壁が傷つくと、修復しようとして血栓ができることがあります。
血栓症の怖いところは、初期には自覚症状が少ない場合があることです。しかし、血栓が大きくなったり、血栓が血管を完全に詰まらせてしまうと、命に関わることもあります。そのため、日頃から注意が必要です。
塞栓症とは?「浮遊物」が血管を詰まらせる病気
一方、塞栓症は、体の中のどこかでできた血栓や、その他の「浮遊物(ふゆうぶつ)」が血液の流れに乗って、体の別の場所にある血管に運ばれ、そこで血管を詰まらせてしまう病気です。血栓症でできた血栓が、血流に乗って移動してしまうこともあります。この移動してきた血栓のことを「塞栓子(そくせんし)」と呼びます。
塞栓症を引き起こす「浮遊物」には、次のようなものがあります。
- 血栓: 血栓症でできた血栓が剥がれて運ばれてくる。
- 脂肪: 骨折などで脂肪が血液中に入り込む。
- 空気: 手術中などに誤って空気が血管に入り込む。
- 腫瘍(しゅよう)の断片: がんなどが剥がれて運ばれる。
塞栓症が起こる場所によって、病名や症状は大きく変わります。例えば、脳の血管で詰まると「脳梗塞」、肺の血管で詰まると「肺塞栓症」となり、それぞれ危険な状態です。
血栓症と塞栓症の決定的な違い:「できる場所」と「移動するかどうか」
血栓症と塞栓症の最も大きな違いは、 「血栓(または塞栓子)ができた場所で血管を詰まらせるのが血栓症」 、 「できた場所から移動して別の場所の血管を詰まらせるのが塞栓症」 という点です。
具体的に見ていきましょう。
| 病気の種類 | 詰まる原因 | 詰まる場所 |
|---|---|---|
| 血栓症 | 血栓(血液の塊) | 血栓ができた血管 |
| 塞栓症 | 血栓、脂肪、空気など(塞栓子) | 血管を流れてきた先(血栓ができた場所とは限らない) |
つまり、血栓症は「原地での事件」、塞栓症は「犯人の移送と逮捕劇」に例えることができます。血栓症が塞栓症の原因になることは多いのですが、塞栓症は血栓以外の原因でも起こりうるという点が重要です。
血栓症の具体的な例:足の血管が詰まる「深部静脈血栓症」
血栓症の代表的な例として、「深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)」が挙げられます。これは、足の深いところにある静脈に血栓ができて、血流が悪くなる病気です。長時間座りっぱなしや立ちっぱなしでいると、足の血流が滞り、血栓ができやすくなります。
深部静脈血栓症の症状としては、以下のようなものがあります。
- 足のむくみ(特にふくらはぎ)
- 足の痛みやだるさ
- 足の色が赤紫色になる
- 触ると熱を持っている
この深部静脈血栓症でできた血栓が剥がれて、肺の血管に飛んでしまうと、非常に危険な「肺塞栓症」という状態になってしまいます。
塞栓症の具体的な例:脳の血管が詰まる「脳梗塞」
塞栓症の代表的な例が「脳梗塞(のうこうそく)」です。脳梗塞の多くは、心臓や首の血管でできた血栓が剥がれて、脳の細い血管に詰まること(塞栓子による閉塞)で起こります。血栓が脳の血管を詰まらせると、その部分の脳細胞に酸素や栄養が届かなくなり、脳の機能が失われてしまうのです。
脳梗塞の症状は、突然現れることが特徴で、次のようなものがあります。
- 片方の手足に力が入らない、しびれる
- ろれつが回らない、言葉が出にくい
- 片方の顔がゆがむ
- 急にものが見えにくくなる
- めまいがしてまっすぐ歩けない
これらの症状は、すぐに現れる「一過性脳虚血発作」の場合もありますが、放置すると本格的な脳梗塞につながる可能性もあるため、すぐに医療機関を受診することが大切です。
血栓症と塞栓症の「発生場所」と「原因物質」のまとめ
改めて、血栓症と塞栓症の違いを、発生場所と原因物質の観点から整理してみましょう。
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発生場所:
- 血栓症:血栓ができた血管そのもの。
- 塞栓症:血栓などが運ばれてきた先の血管。
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原因物質:
- 血栓症:主に血液が固まってできた「血栓」。
- 塞栓症:血栓のほか、脂肪、空気、腫瘍の断片など、「塞栓子」と呼ばれるもの。
この二つは、原因と結果の関係になることも多く、血栓症が塞栓症を引き起こすパターンは特に注意が必要です。
血栓症と塞栓症の「リスク因子」:どんな人がなりやすい?
血栓症や塞栓症になりやすい人(リスク因子)は、いくつか共通しています。
- 高齢者: 加齢とともに血管の機能が低下しやすいため。
- 肥満: 血液の流れが悪くなりやすく、血液が固まりやすくなる傾向があるため。
- 運動不足: 筋肉のポンプ作用が弱まり、血流が滞りやすいため。
- 喫煙: 血管を傷つけ、血液を固まりやすくするため。
- 病気: 心臓病、がん、糖尿病、腎臓病など、血栓ができやすい病気を持っている場合。
- 手術や長時間の安静: 体の動きが制限されることで血流が悪くなるため。
- 妊娠・出産: ホルモンの影響で血液が固まりやすくなるため。
これらのリスク因子を持っている方は、特に注意が必要です。
血栓症と塞栓症の「予防」と「対策」:日頃からできること
血栓症と塞栓症は、日頃の生活習慣を見直すことで予防につながります。
- 適度な運動: ウォーキングやストレッチなど、定期的に体を動かすことが大切です。
- 水分補給: こまめな水分補給で、血液をサラサラに保ちましょう。
- 禁煙: 喫煙は血管の大敵です。
- バランスの取れた食事: 野菜や果物を多く摂り、塩分や脂肪分を控えめにしましょう。
- 長時間の同じ姿勢を避ける: 座りっぱなしや立ちっぱなしの場合は、時々休憩をとって体を動かしましょう。
もし、足のむくみや痛み、突然のめまいやろれつが回らないなどの症状が現れたら、迷わず医療機関を受診してください。
血栓症と塞栓症は、どちらも命に関わる可能性のある怖い病気ですが、そのメカニズムの違いを理解し、日頃から予防に努めることが大切です。この記事を参考に、ご自身の健康管理に役立てていただけたら幸いです。