「行政書士」と「弁護士」、どちらも法律に関わる仕事だけれど、具体的に何が違うのか、実はよく知らないという人も多いのではないでしょうか。この二つの専門家の違いを理解することは、いざという時にどちらに相談すれば良いのかを判断するために、 とっても大切 です。今回は、行政書士と弁護士の違いを、分かりやすく解説していきます。
業務範囲と専門分野の広さ
行政書士と弁護士の最も大きな違いは、それぞれの業務範囲と専門分野の広さにあります。行政書士は、許認可申請や書類作成など、行政手続きの専門家です。例えば、お店を開くために必要な営業許可の申請や、外国の方が日本で暮らすための在留資格の申請などを代行してくれます。彼らは、法律の中でも特に「行政法」という、国や自治体とのやり取りに関するルールに詳しいのです。
一方、弁護士は、より幅広い法律問題に対応できる「法律の万能選手」と言えるでしょう。民事事件(例えば、借金問題や交通事故の損害賠償請求)、刑事事件(犯罪に関する裁判)、家事事件(離婚や相続問題)など、日常生活で起こりうる様々な法律トラブルを扱います。彼らは、法律全般に精通しており、依頼者の権利を守るために裁判で弁護することもできます。
- 行政書士:
- 許認可申請の代行
- 契約書・遺言書などの書類作成
- 外国在留資格の手続き
- 弁護士:
- 裁判(民事、刑事、家事)
- 法律相談
- 示談交渉
このように、行政書士は行政との手続きに特化しているのに対し、弁護士はより広範な法律問題に対応できるという点が、 大きな違い です。
相談できる内容の具体例
では、具体的にどのような場合にどちらに相談すれば良いのでしょうか。行政書士に相談する代表的な例としては、「新しい会社を設立したいので、法人設立の手続きを任せたい」「相続した不動産の名義を変更したい」「外国人技能実習生を受け入れたい」といったケースが挙げられます。これらは、役所への申請や届出が中心となる手続きです。
一方、弁護士に相談するケースは、「交通事故で怪我をしてしまい、相手方との示談交渉がうまくいかない」「近所との騒音トラブルで、話し合いで解決できない」「離婚することになったが、子供の親権や財産分与について争いがある」といった、より複雑で権利や義務が絡む問題です。裁判になる可能性のある案件や、相手方との交渉が平行線になってしまった場合に、弁護士の専門的な知識と経験が役立ちます。
表にまとめると、以下のようになります。
| 行政書士に相談しやすいこと | 弁護士に相談しやすいこと |
|---|---|
| 開業・許認可申請 | 離婚・相続の争い |
| ビザ・在留資格 | 交通事故・労災事故 |
| 契約書作成(定型的なもの) | 刑事事件の弁護 |
相談内容によって、最適な専門家が異なります。
資格取得の難易度と試験内容
行政書士と弁護士の資格を取得するための難易度も、一般的に大きな違いがあります。行政書士試験は、法律の初学者でも合格できるような難易度と言われ、比較的挑戦しやすい資格です。出題範囲は、行政法、民法、商法、基礎法学など、法律の基礎的な知識が中心となります。
対して、司法試験を経て弁護士になる道は、非常に難易度が高いことで知られています。司法試験は、法科大学院(ロースクール)を卒業した人が受験資格を得られる場合が多く、合格率も低いです。試験内容は、憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法など、高度な法律知識と応用力が求められます。 この資格取得の難易度の差は、それぞれの専門性の深さとも関係しています。
具体的に、司法試験の合格率は、一般的に10%前後と言われています。一方、行政書士試験の合格率は、例年10%台後半から20%台前半です。
「法律事務」の独占権について
行政書士と弁護士の業務範囲を分ける上で、重要なのが「法律事務」の独占権という考え方です。弁護士は、法律で定められた「法律事務」を独占的に行うことができます。これには、裁判所での弁護活動や、依頼者の代理人としての交渉などが含まれます。
一方、行政書士は、書類作成や許認可申請の代行はできますが、紛争性のある案件や、裁判所での手続きに関わるような「法律事務」は、原則として行うことができません。例えば、相手方との間で意見の対立があるような複雑な法律相談は、弁護士の領域となります。 この独占権の範囲が、両者の業務を明確に区別しています。
費用について
一般的に、相談料や依頼にかかる費用も、行政書士と弁護士では異なる傾向があります。行政書士の報酬は、案件の内容によって異なりますが、弁護士の報酬に比べると、比較的低額な場合が多いです。書類作成や許認可申請の代行などは、定額制や時間制で設定されていることが多いです。
弁護士の報酬は、法律事務の複雑さや、係争の状況によって大きく変動します。相談料に加えて、着手金、成功報酬、実費などがかかることが一般的で、行政書士よりも高額になる傾向があります。ただし、法テラス(日本司法支援センター)などを利用すれば、経済的な負担を軽減できる場合もあります。 費用面も、相談する際の重要な判断材料となります。
連携の可能性
行政書士と弁護士は、それぞれ得意分野は異なりますが、お互いに連携して依頼者の問題を解決することもあります。例えば、行政手続きの専門家である行政書士が、その手続きを進める中で、法的な争いが生じそうな場合や、より高度な法律相談が必要になった場合に、弁護士に協力を依頼することがあります。逆に、弁護士が依頼を受けた事件で、行政手続きが必要になった際に、行政書士に協力を仰ぐこともあります。
このように、両者は互いの専門性を尊重し、協力し合うことで、よりスムーズで確実な問題解決を目指すことができます。 「どちらに相談すれば良いかわからない」という場合でも、まずは一方に相談してみることで、必要に応じて適切な専門家につないでもらえることもあります。
行政書士と弁護士の違いについて、理解が深まりましたでしょうか。どちらも、私たちの生活を法律の側面から支えてくれる大切な専門家です。それぞれの得意分野を理解して、困ったときには適切な専門家に相談することが、賢い選択につながります。