「生薬（しょうやく）」と「漢方（かんぽう）」、どちらも聞くことがある言葉ですが、具体的に何が違うのでしょうか？実は、この二つは密接に関連していますが、それぞれ異なる概念なんです。「生薬 と 漢方 の 違い」を理解することで、より賢く東洋医学を取り入れることができるようになりますよ。
生薬って何？漢方薬との関係は？
まず、「生薬」についてお話ししましょう。生薬とは、植物、動物、鉱物などの天然物を、そのまま、あるいは加工して得られる薬の原料のことです。例えば、ショウガやニンジン、サンショウなども生薬として使われます。これらは、それぞれ単独で薬効を持つものもあれば、他の生薬と組み合わせて初めて効果を発揮するものもあります。 生薬の性質や効能を理解することが、漢方薬を理解する上でとても重要 なのです。
- 植物由来の生薬 ：大棗（たいそう）、甘草（かんぞう）、桂皮（けいひ）など
- 動物由来の生薬 ：鹿茸（ろくじょう）、蟾酥（せんそ）など
- 鉱物由来の生薬 ：滑石（かっせき）、石膏（せっこう）など
これらの生薬を、医師や薬剤師の指示のもと、一定の割合で組み合わせ、煮出して作られたものが「漢方薬」なのです。つまり、生薬は漢方薬を作るための「材料」のようなものと言えますね。
漢方薬の成り立ちと特徴
次に、「漢方薬」についてもう少し詳しく見ていきましょう。漢方薬は、中国で生まれた伝統医学である「漢方医学」に基づいて処方される薬のことです。単に生薬を混ぜ合わせただけではなく、それぞれの生薬が持つ性質（寒・熱、補・瀉など）や味（甘・辛・酸・苦・鹹）などを考慮して、複雑な組み合わせで成り立っています。
- 証（しょう）を立てる ：一人ひとりの体質や症状（証）を見極めます。
- 生薬を選ぶ ：証に合った生薬を選びます。
- 方剤（ほうざい）を組み立てる ：選んだ生薬を、君臣佐使（くんしんさし）という考え方に基づいて組み合わせます。
このように、漢方薬は個人の状態に合わせてオーダーメイドで作られることが多いのが特徴です。そのため、市販されている風邪薬とは少し違うアプローチをとります。
| 君薬（くんやく） | 主たる症状に作用する生薬 |
|---|---|
| 臣薬（しんやく） | 君薬を助ける生薬 |
| 佐薬（さやく） | 君薬・臣薬を助けたり、副作用を軽減したりする生薬 |
| 使薬（しやく） | 調和を整えたり、薬効を高めたりする生薬 |
生薬と漢方薬の「違い」を整理しよう
さて、「生薬 と 漢方 の 違い」をさらに明確にしましょう。生薬はあくまで「薬の材料」であり、単体で使われることもありますが、漢方薬はそれらの生薬を組み合わせて作られた「処方薬」です。生薬は自然界に存在するものをそのまま、あるいは少し加工したものですが、漢方薬は漢方医学の理論に基づいて、その効果を最大限に引き出すように調合されています。
- 生薬 ：原料、素材
- 漢方薬 ：調合された処方
例えば、ニンジンの根は「生薬」ですが、そのニンジンや他の生薬が組み合わされて、ある症状を改善するために作られたものが「漢方薬」なのです。それぞれの生薬が持つ個別の力だけでなく、生薬同士が合わさることで生まれる相乗効果や、全体のバランスが漢方薬の真骨頂と言えます。
生薬の「単味」と漢方薬の「複合」
生薬は、単味（たんみ）で使われることもあります。これは、一つの生薬だけで薬効を得ようとする場合です。例えば、胃の調子を整えるためにショウガ湯を飲んだり、リラックスするためにカモミールティーを飲んだりするのは、生薬を単味で利用している例と言えるでしょう。
一方、漢方薬は複数の生薬が組み合わされた「複合」の力で効果を発揮します。この組み合わせは、単に足し算ではなく、掛け算やそれ以上の効果を生み出すこともあります。それぞれの生薬が持つ性質を理解し、それを患者さんの体質や症状に合わせて絶妙に調合することで、より深くて広範な治療効果を目指すのが漢方薬なのです。
生薬の「性質」と漢方薬の「処方」
生薬には、それぞれ「四気（しき）」と呼ばれる性質があります。これは、その生薬が体に与える影響が「寒（かん）」、「涼（りょう）」、「温（おん）」、「熱（ねつ）」のどれにあたるかを示すものです。また、「五味（ごみ）」という、味（甘・辛・酸・苦・鹹）によっても薬効が異なります。
漢方薬の処方では、これらの生薬の「性質」や「味」を総合的に考慮します。例えば、体が冷えている人には「温」や「熱」の性質を持つ生薬を多く使い、熱っぽい人には「寒」や「涼」の性質を持つ生薬を組み合わせるといった具合です。
- 四気（しき） ：寒・涼・温・熱
- 五味（ごみ） ：甘・辛・酸・苦・鹹
これらの性質を理解し、患者さんの「証」に合わせて適切な生薬を組み合わせるのが漢方薬の処方なのです。
生薬の「作用」と漢方薬の「全体的治療」
生薬は、それぞれに特定の「作用」を持っています。例えば、ある生薬は血行を促進する作用、別の生薬は炎症を抑える作用、さらに別の生薬は精神を安定させる作用などです。これらの個別の作用を持つ生薬を集めて、漢方薬は作られます。
しかし、漢方薬のすごいところは、個々の生薬の作用を単に集めただけでなく、それらを組み合わせることで、より「全体的」な治療を目指せるところです。例えば、一つの漢方薬で「体の冷えを改善しつつ、痛みを和らげ、さらに胃腸の働きも助ける」といった、複数の効果を同時に得られるように設計されているのです。
生薬の「効果」と漢方薬の「個別対応」
生薬は、それぞれが持つ「効果」によって薬として利用されます。生薬の図鑑や薬効成分に関する書物には、各生薬の効果が細かく記されています。
一方、漢方薬は、その個々の生薬の効果を基盤としながらも、患者さん一人ひとりの「個別対応」を重視します。同じような症状であっても、体質が異なれば処方される漢方薬も変わってきます。これが、漢方薬が「オーダーメイド」と言われる所以です。生薬の単なる効果の羅列ではなく、その人の全体像を見て、最も適した処方を見つけ出すのが漢方薬なのです。
このように、「生薬」は漢方薬の基本的な材料であり、「漢方薬」はそれらの生薬を、漢方医学の理論に基づいて巧妙に組み合わせた、より高度で個別化された治療法と言えます。どちらも私たちの健康を支える大切な存在です。