知っておきたい「認知症」と「精神病」の違い、その見分け方と理解

「認知症」と「精神病」、どちらも高齢者の方々にとって深刻な問題ですが、その原因や症状、治療法は大きく異なります。この二つを混同してしまうと、適切な対応が遅れてしまうことも。そこで今回は、 認知症と精神病の違い を分かりやすく解説し、それぞれの特徴を理解するためのポイントを深掘りしていきます。

根本的な原因の違い:脳の器質的変化と心の病

まず、最も大きな違いは、その根本的な原因にあります。認知症は、脳の病気や損傷によって、記憶力、判断力、言語能力などの「認知機能」が低下してしまう状態です。これは、脳の細胞がダメージを受けたり、死んでしまったりすることで起こります。一方、精神病は、脳の機能異常というよりは、心の働きに原因があると考えられています。感情や思考、行動に異常が現れる病気です。

具体的に見ていきましょう。

  • 認知症: 脳の細胞がダメージを受けることが原因。
  • 精神病: 心の働き、感情や思考のバランスの崩れが原因。

この原因の違いを理解することが、適切な支援への第一歩となります。

例えば、認知症の代表的なものにアルツハイマー型認知症がありますが、これは脳にアミロイドβというタンパク質が溜まり、神経細胞を破壊していくことが原因です。一方、統合失調症などの精神病は、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることが関与していると考えられています。

症状の現れ方の違い:記憶障害と幻覚・妄想

次に、現れる症状にも違いが見られます。認知症では、物忘れがひどくなる、新しいことを覚えられなくなる、慣れた道で迷うといった「記憶障害」や「見当識障害(時間や場所が分からなくなる)」が中心となります。また、判断力が低下し、些細なことで怒りっぽくなったり、意欲がなくなったりすることもあります。

精神病では、幻覚(実際にはないものが見えたり聞こえたりする)や妄想(現実にはありえないことを信じ込んでしまう)といった、現実検討能力の低下が特徴的です。また、感情の起伏が激しくなったり、逆に感情が乏しくなったり、奇妙な言動をとったりすることもあります。

比較表でまとめると、以下のようになります。

認知症 精神病
記憶障害、見当識障害、判断力低下、意欲低下 幻覚、妄想、感情の不安定、奇妙な言動

症状の違いを注意深く観察することが、病気の特定に役立ちます。

進行の仕方と治療法:進行性か、寛解を目指すか

認知症は、一般的に徐々に進行していく病気です。現時点では、完全に治癒させる方法は確立されていませんが、進行を遅らせるための薬物療法や、生活環境の整備、リハビリテーションなど、症状の進行を緩やかにし、生活の質を維持するためのケアが行われます。

精神病の治療は、病気の種類や重症度によって異なりますが、多くの場合、薬物療法が中心となります。抗精神病薬などを用いて、幻覚や妄想などの症状を抑え、心のバランスを整えることを目指します。また、精神科医や心理士によるカウンセリングや、社会復帰のためのリハビリテーションも重要です。

治療における目標は、それぞれ異なります。

  1. 認知症:進行の抑制と生活の質の維持
  2. 精神病:症状の寛解(症状が落ち着いた状態)と社会生活への復帰

病気の特性に合わせた治療方針の理解が、回復への道筋を照らします。

発症年齢:高齢者に多い認知症、若年層にも見られる精神病

発症する年齢層にも違いが見られます。認知症は、加齢とともに発症リスクが高まるため、一般的に高齢者に多い病気です。もちろん、若年性認知症という形で若くして発症するケースもありますが、高齢者人口の増加とともに、認知症の患者さんも増えています。

一方、精神病は、若年層から発症することが比較的多い病気です。統合失調症などは、10代後半から30代にかけて発症することが一般的とされています。もちろん、高齢になってから発症するケースもありますが、発症年齢のピークが認知症とは異なります。

年齢層ごとの特徴は以下の通りです。

  • 認知症: 高齢者に多い(若年性認知症もある)
  • 精神病: 若年層から発症しやすい(高齢発症もある)

発症年齢の傾向を知ることで、早期発見・早期対応の可能性が高まります。

家族や周囲への影響:生活支援と精神的サポート

認知症の場合、患者さんの介護や日常生活のサポートが家族にとって大きな負担となることがあります。記憶が曖昧になったり、徘徊(さまよい歩くこと)をしたりすることもあるため、家族は常に目を配り、安全を確保する必要があります。また、患者さんの変化に戸惑い、精神的に疲弊してしまう家族も少なくありません。

精神病の場合、患者さんの言動が周囲に理解されにくく、孤立してしまうことがあります。また、症状によっては、家族が精神的なショックを受けたり、どのように接したら良いか悩んだりすることもあります。病気への理解を深め、家族全体で支えていくことが重要です。

家族や周囲が果たす役割は、それぞれに異なります。

  • 認知症: 日常生活の介助、安全確保、精神的サポート
  • 精神病: 病気への理解、治療への協力、精神的サポート

周囲の温かい理解とサポートが、患者さんの回復と安定につながります。

鑑別診断の重要性:専門医による正確な判断

認知症と精神病は、症状が似ている場合もあり、素人判断は非常に危険です。例えば、物忘れがひどいという症状だけを見ると、どちらの病気にも当てはまる可能性があります。しかし、その原因や治療法は全く異なるため、 正確な鑑別診断(病気を見分けること)が極めて重要です。

診断は、医師が問診、神経学的検査、心理検査、画像検査(CTやMRIなど)を組み合わせて行います。これらの検査を通じて、脳の器質的な変化があるのか、それとも心の働きに問題があるのかを判断していきます。

鑑別診断のプロセスは、以下のようになります。

  1. 問診(症状や生活状況の聞き取り)
  2. 神経学的検査(体の動きや感覚のチェック)
  3. 心理検査(記憶力や思考力の評価)
  4. 画像検査(脳の状態を確認)

専門医による正確な診断を受けることが、適切な治療の第一歩です。

ご本人やご家族が、心配な症状に気づいた場合は、迷わず医療機関を受診することが大切です。早期に専門医の診察を受けることで、病気の早期発見、早期治療につながり、より良い結果が期待できます。

認知症と精神病は、それぞれ異なる病気であり、その違いを理解することは、患者さん本人だけでなく、ご家族や周囲の人々が適切な対応をとるために不可欠です。それぞれの病気に合わせた理解とサポートが、患者さんの生活の質を高め、より穏やかな日々を送るための助けとなるでしょう。

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