人工 呼吸 器 と 酸素 マスク の 違い:知っておきたい基本知識

「人工呼吸器」と「酸素マスク」という言葉を聞いたことはありますか?どちらも呼吸を助けるための医療機器ですが、その役割や仕組みには大きな違いがあります。今回は、 人工呼吸器と酸素マスクの違い について、分かりやすく解説していきます。

呼吸のサポート、その目的と基本的な機能

人工呼吸器と酸素マスクの最も大きな違いは、その「目的」と「機能」にあります。酸素マスクは、文字通り、患者さんに「酸素」を供給することを主な目的としています。一方、人工呼吸器は、患者さん自身の呼吸が困難になった場合に、 肺への空気の送り込みを「代行」あるいは「補助」する という、より高度な役割を担います。

酸素マスクは、通常、患者さんが自分で呼吸できるものの、体内に取り込む酸素の量が不足している場合に用いられます。例えば、肺炎で肺の機能が低下している方や、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器疾患をお持ちの方などが対象となります。酸素マスクは、医療用酸素ボンベやセントラル酸素供給装置から送られてくる高濃度の酸素を、鼻や口から吸い込めるようにするシンプルな装置です。

対照的に、人工呼吸器は、患者さんが自分で十分に呼吸ができない、あるいは全く呼吸ができない状態の時に使用されます。これは、重度の呼吸不全、手術後の麻酔、意識障害、神経筋疾患など、様々な原因で呼吸筋がうまく働かない場合に不可欠な装置です。人工呼吸器は、設定された圧力や回数で、患者さんの肺に直接空気を送り込み、ガス交換(酸素の取り込みと二酸化炭素の排出)を助けるため、単なる酸素供給以上の機能を持っています。

機能 人工呼吸器 酸素マスク
主な目的 呼吸の代行・補助 酸素供給
呼吸筋の働き 代行・補助 患者自身の呼吸に依存
空気の送り込み 強制的に送り込む 患者自身の吸気

人工呼吸器の種類と作動原理

人工呼吸器には、その作動原理によっていくつかの種類があります。患者さんの状態や治療の目的に合わせて、最適なものが選択されます。例えば、体外から空気を送り込む「陽圧換気」という方式が一般的で、これには「侵襲的換気」と「非侵襲的換気」があります。

  • 侵襲的換気(挿管換気) :気管にチューブ(気管チューブや気管切開チューブ)を挿入し、そこから人工呼吸器で空気を送り込む方法です。これにより、より確実に、かつ高い圧力で空気を肺に送り込むことができます。
  • 非侵襲的換気(マスク換気) :鼻や口を覆うマスクを装着し、そこから人工呼吸器で空気を送り込む方法です。気管にチューブを挿入する必要がないため、患者さんの負担が比較的少ないのが特徴です。

人工呼吸器は、単に空気を送り込むだけでなく、患者さんの呼吸のパターンや、肺の状態に合わせて、送る空気の量(一回換気量)、回数(換気回数)、圧力などを細かく調整することができます。これにより、 呼吸を安全かつ効果的にサポート することが可能になります。

  1. 設定された換気回数で空気を送り込む。
  2. 患者さんが自分で呼吸しようとしたら、それに合わせて補助する。
  3. 設定された圧力で空気を送り込む。

酸素マスクのタイプと用途

酸素マスクにも、その性能や用途によっていくつかの種類があります。最もシンプルなものは、「鼻カニューラ」や「単純酸素マスク」ですが、より高濃度の酸素を効率よく供給するためのものもあります。

  • 鼻カニューラ :鼻の穴に挿入する細いチューブで、比較的低濃度の酸素を供給するのに適しています。患者さんの会話や食事がしやすいというメリットがあります。
  • 単純酸素マスク :鼻と口を覆うマスクで、鼻カニューラよりも高濃度の酸素を供給できます。
  • リザーバー付きマスク(非再呼吸マスク) :マスクの横に酸素を溜めるための袋(リザーバーバッグ)が付いており、これにより非常に高濃度の酸素を供給できます。

これらの酸素マスクは、患者さんの呼吸状態や必要な酸素濃度に応じて使い分けられます。例えば、一時的に酸素濃度を上げたい場合や、患者さんが自分で呼吸できる場合は、これらのマスクが選択されることが多いです。

使用される状況の違い

人工呼吸器と酸素マスクは、それぞれ異なる状況で使用されます。人工呼吸器は、前述したように、生命維持に直結するような重篤な呼吸不全の場合に、集中治療室(ICU)などで使用されることがほとんどです。 患者さんの呼吸を積極的に管理する 必要があるため、専門的な知識を持った医療従事者による厳重な管理が不可欠です。

一方、酸素マスクは、比較的軽度な酸素不足の場合や、病状が安定している患者さん、あるいは自宅療養中の患者さんにも使用されることがあります。例えば、急性期の病状が落ち着き、退院後も酸素療法が必要な場合などです。酸素マスクは、人工呼吸器ほど複雑な操作や管理を必要としないため、使用できる範囲が広いと言えます。

機器の構造と操作性

人工呼吸器は、空気を送り出すためのコンプレッサーやポンプ、送気量や圧力を精密に制御するコンピューターシステム、そして患者さんに接続するためのチューブなど、複雑な構造を持っています。操作も専門的な知識が必要で、様々なモードや設定を適切に調整する必要があります。

対照的に、酸素マスクは、患者さんが自分で呼吸できることを前提としたシンプルな構造です。医療用酸素供給源に接続するだけで使用でき、操作も容易です。ただし、マスクのフィット感や、患者さんの快適性も考慮して選ばれます。

禁忌と適応

人工呼吸器と酸素マスクには、それぞれ使用できる状況(適応)と、使用できない状況(禁忌)があります。人工呼吸器は、患者さんの呼吸が自力では困難な場合に広く適応されますが、例えば、気道が完全に閉塞している場合や、一部の脳出血など、禁忌となる病状も存在します。

酸素マスクは、比較的多くの状況で適応されますが、過剰な酸素投与は肺に負担をかける可能性もあるため、注意が必要です。また、二酸化炭素が体内に溜まりやすいタイプの呼吸不全(例えば、一部のCOPD患者さん)では、高濃度の酸素投与が逆に呼吸を抑制してしまう「CO2ナルコーシス」を引き起こすリスクがあるため、使用には慎重な判断が必要です。

人工呼吸器と酸素マスクは、どちらも患者さんの呼吸を助けるための大切な医療機器ですが、その機能や使用される状況は大きく異なります。 それぞれの違いを理解すること は、医療現場での適切な対応や、患者さん・ご家族の安心につながります。

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