「ファシリテーター」と「司会」は、どちらも会議やイベントで進行役を務める立場ですが、その役割と目的には明確な違いがあります。この違いを理解することは、会議をより建設的で効果的なものにするために非常に重要です。本記事では、ファシリテーターと司会の違いについて、それぞれの役割や求められるスキルに焦点を当てて詳しく解説していきます。
目的と役割の違い:単なる進行役か、それとも成果創出の触媒か
まず、最も大きな違いは「目的」にあります。司会者の主な目的は、会議やイベントが時間通りに、そして定められたアジェンダ(議題)に沿って進むように「進行」することです。参加者がスムーズに発言でき、次の議題に移るタイミングを計るなど、物理的な進行管理に重点が置かれます。
一方、ファシリテーターの目的は、会議の「成果」を最大化することです。単に話を進めるだけでなく、参加者全員の意見を引き出し、議論を深め、最終的な合意形成や問題解決へと導くことを目指します。そのため、ファシリテーターは参加者の感情や関係性にも配慮し、心理的な安全性を確保しながら、建設的な対話を生み出すための働きかけを行います。
これらの違いをまとめると、以下のようになります。
- 司会者:
- 時間管理とアジェンダ消化
- 発言機会の公平な提供
- 会議の形式的な進行
- ファシリテーター:
| 重視する点 | 議論の質、参加者のエンゲージメント、成果創出 |
|---|---|
| 主な役割 | 意見の引き出し、深掘り、合意形成の支援 |
求められるスキル:中立性と共感、それとも仕切り能力
ファシリテーターと司会者には、それぞれ異なるスキルが求められます。司会者は、明瞭な声で指示を出し、時間通りに進行するための「仕切り能力」や「場をまとめる力」が重要視されます。
対してファシリテーターには、参加者全員が安心して発言できるような「傾聴力」や「共感力」が不可欠です。また、議論が脱線しそうになった時に軌道修正する「誘導力」、多様な意見を整理し、共通点や対立点を見つけ出す「分析力」も求められます。さらに、ファシリテーターは「中立性」を保つことが極めて重要です。特定の意見に偏らず、あくまで議論のプロセスを支援する立場に徹します。
両者のスキルセットを比較すると、以下のようになります。
- 司会者:
- 声量と明瞭な話し方
- 時間管理能力
- アジェンダの正確な把握
- ファシリテーター:
- 傾聴力と共感力
- 質問力(深掘り、確認)
- 中立性と公平性
- 議論の構造化能力
関与の深さ:プロセス管理か、本質的な問題解決か
会議における関与の深さも、ファシリテーターと司会者では異なります。司会者は、会議の「プロセス」そのものに焦点を当て、スムーズな進行を管理することに注力します。会議の内容そのものに深く踏み込むことは、必ずしも求められません。
一方、ファシリテーターは、会議の「本質的な問題」や「参加者の課題」に深く関与します。表面的な議論にとどまらず、参加者が本音で語り合えるように促し、問題の根源を探る手助けをします。そのため、ファシリテーターは会議のテーマについて一定の理解を持っていることが望ましい場合もあります。
関与の深さについて、さらに掘り下げてみましょう。
- 司会者:
- 会議の開始・終了のアナウンス
- 発言者の指名
- 休憩のアナウンス
- ファシリテーター:
| 関与レベル | 高 |
|---|---|
| 主な活動 | 発言内容への問いかけ、論点の整理、参加者間の橋渡し |
発言への介入:発言機会の確保か、意見の深化か
発言への介入の仕方にも違いがあります。司会者は、参加者全員に発言機会が均等に与えられるように配慮し、誰かが一方的に話し続けないように調整する役割を担います。参加者の発言を促すことはありますが、発言内容そのものに踏み込むことは少ないでしょう。
ファシリテーターは、参加者の発言内容に積極的に関与し、議論を深めるための働きかけを行います。例えば、「それは具体的にどういうことですか?」と問いかけたり、「Aさんの意見とBさんの意見は、こういう点で共通していますね」と論点を整理したりすることで、参加者の理解を深め、新たな視点を引き出します。
発言への介入方法について、以下のように整理できます。
- 司会者:
- 「〇〇さん、ご意見をお願いします。」
- 「時間になりましたので、次の議題に移ります。」
- ファシリテーター:
- 「〇〇さんの、△△という点について、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」
- 「なるほど、皆さんの意見をまとめると、こういう方向性が見えてきましたね。」
- 「この点について、反対意見や別の視点はありますか?」
中立性:立場維持か、中立的な支援者か
「中立性」は、ファシリテーターにとって特に重要な要素です。ファシリテーターは、会議の参加者の一員というよりも、議論のプロセスを公平に支援する「中立的な第三者」の立場を貫きます。特定の意見に賛成したり反対したりすることはせず、あくまで参加者同士の対話が円滑に進むように努めます。
司会者の場合、会議の主催者側であったり、特定の目的を達成するために会議を仕切る立場であったりすることもあります。そのため、必ずしも完全な中立性が求められるとは限りません。しかし、ファシリテーターが目指す「心理的安全性の高い場」を作るためには、司会者であってもある程度の中立性を意識することが望ましいと言えます。
中立性に関する違いを、表で確認してみましょう。
| 司会者 | ファシリテーター | |
|---|---|---|
| 中立性 | 必ずしも絶対ではない | 極めて重要 |
| 立場 | 主催者側、進行役 | 中立的な支援者、触媒 |
この違いを理解し、会議の目的に応じて適切な役割を担うことが、円滑で実りある会議運営につながります。どちらの役割も、会議を成功させるために欠かせない存在なのです。