認知症と物忘れの違いを例で解説:知っておきたい大切なポイント

「最近物忘れがひどくて…」と心配されている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、単なる物忘れと「認知症」による物忘れには、実は大きな違いがあります。この違いを理解することは、ご自身や大切な人の健康を守る上で非常に重要です。ここでは、「認知症と物忘れの違い」を具体的な例を交えながら、分かりやすく解説していきます。

物忘れのメカニズム:正常な脳の働き

まず、私たちが日常的に経験する「物忘れ」は、脳の正常な働きの一部と考えることができます。脳は日々大量の情報を取り込み、処理していますが、すべてを記憶しておくわけではありません。必要のない情報や、あまり重要でない情報は自然と忘れられていきます。これは、脳が効率的に働くために必要な機能なのです。

例えば、昨日の夕食のメニューは思い出せないけれど、子どもの誕生日や大切な記念日はしっかりと覚えている、といった経験はありませんか?これは、脳が情報の重要度を判断し、優先順位をつけて記憶している証拠です。 この「忘れても生活に支障が出ない」というのが、正常な物忘れの大きな特徴です。

  • 電話番号を覚えるのが苦手
  • 昨日読んだ本のタイトルが思い出せない
  • 人の名前を覚えるのに時間がかかる

これらの物忘れは、少し考えると思い出せたり、ヒントがあればすぐに理解できたりすることがほとんどです。また、周りの人に助けてもらったり、メモを取ったりすることで、日常生活を送る上で大きな問題になることはありません。

認知症による物忘れ:脳の病気による変化

一方、認知症による物忘れは、脳の病気によって脳の機能が低下することで起こります。単に忘れるだけでなく、その忘れることで日常生活に支障が出始めます。例えば、ついさっき話したことを忘れてしまったり、同じことを何度も繰り返し聞いたりするようになることがあります。

認知症の物忘れは、忘れること自体も問題ですが、 忘れたことを自覚できていない、あるいは忘れたことに対して混乱したり、不安になったりする ことも特徴的です。また、物忘れ以外にも、判断力や理解力の低下、意欲の低下など、様々な症状が現れることがあります。

認知症の主な原因となる病気には、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症などがあり、それぞれ脳のどの部分がダメージを受けているかによって、現れる症状が異なります。

物忘れの種類 日常生活への影響
正常な物忘れ 昨日の夕食のメニュー ほとんどなし
認知症による物忘れ ついさっき話した約束 あり

判断力や理解力の低下

認知症による物忘れは、単に記憶を失うだけではありません。物事を判断したり、理解したりする能力も低下していきます。例えば、お金の計算が苦手になったり、複雑な指示を理解できなくなったりすることがあります。

「昨日、スーパーで買い物をしてきたのに、何を買ったか覚えていない」というだけでなく、「買ったものが多すぎて、いくら払ったか分からなくなった」というような、 判断や計算のミス が目立つようになります。これは、脳の「判断」や「計算」を司る部分がダメージを受けているためです。

  1. 複雑な道順を覚えられない
  2. 物の名前が出てこない(言葉が出てこない)
  3. 状況を正しく判断できない

これらの変化は、ご本人だけでなく、周りの人も気づきやすいサインの一つです。

時間や場所の感覚の混乱

認知症の人は、時間や場所の感覚が混乱することがあります。例えば、「今日は何月何日か分からない」「今が朝なのか、夜なのか区別がつかない」といった状態です。

さらに、 自宅にいるのに「家に帰りたい」と言い出したり、慣れた場所でも迷子になったりする こともあります。これは、脳が時間や場所を認識する能力を失っているためです。普段なら迷わないような近道や、よく知っている場所でも、認知症の症状が進むと迷ってしまうことがあります。

  • 「今日は何曜日?」と頻繁に尋ねる
  • 季節感のない服装をしている
  • 見慣れたはずの場所で道に迷う

意欲や関心の低下

認知症が進むと、以前は楽しみにしていた趣味や活動への意欲が低下したり、無関心になったりすることがあります。

例えば、

  1. 趣味だった手芸や園芸をしなくなった
  2. 友達との約束を避けるようになった
  3. テレビを見ていても、楽しんでいる様子がない

これは、脳の「意欲」や「感情」に関わる部分が影響を受けているためと考えられます。 「何もする気が起きない」「以前のようには楽しめなくなった」 という変化は、周囲の人も気づきやすいサインです。

料理や仕事などの複雑な作業ができなくなる

認知症の人は、以前は問題なくできていた複雑な作業が困難になることがあります。例えば、料理の段取りが分からなくなったり、金銭管理ができなくなったりします。

「いつもの料理のレシピを見ても、手順が分からなくなってしまった」「給料の計算ができず、お金の管理が難しくなった」といった状態です。 これは、脳が複数の情報を同時に処理したり、手順を追って作業したりする能力が低下している ことを示しています。

  • 料理の途中で何をするか忘れてしまう
  • 服の着方が分からなくなる
  • 複雑な道具(リモコンなど)の使い方が分からなくなる

日付や曜日の間違い

物忘れの一種として、日付や曜日の間違いは誰にでも起こり得ますが、認知症の場合はその程度が深刻になることがあります。

例えば、

  1. 「今日は何日?」と頻繁に聞く
  2. カレンダーを見ても、日付を正しく認識できない
  3. 季節外れの日付を言ってしまう

これは、時間に関する記憶や認識能力が低下している サインです。日常生活で「今日は何曜日だったかな?」と迷う程度であれば心配いりませんが、頻繁に、そして真剣に間違えるようであれば注意が必要です。

認知症と物忘れは、症状の現れ方や日常生活への影響に大きな違いがあります。もし、ご自身や身近な人に気になる症状が見られた場合は、一人で悩まず、専門医に相談することが大切です。早期発見・早期対応が、より良い生活を送るための第一歩となります。

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