「日商簿記」と「全商簿記」、どちらも簿記の資格としてよく耳にするけれど、実際にはどんな違いがあるのでしょうか? この二つの違いを理解することは、将来の進路や就職活動において、自分に合った資格を選ぶための重要な第一歩となります。今回は、日商簿記と全商簿記の違いを分かりやすく解説します。
試験の実施団体と目的の違い
まず、日商簿記と全商簿記の最も大きな違いは、試験を実施している団体と、それぞれの試験が持つ目的です。日商簿記は、日本商工会議所が主催しており、実務に直結した知識やスキルを測ることを重視しています。そのため、企業で実際に経理担当者として働くことを目指す人にとって、非常に価値のある資格と言えるでしょう。 この資格を持っていると、就職や転職で有利になることが多いのです。
一方、全商簿記は、全国商業高等学校協会が主催しています。これは、主に商業高校生などの学習成果の普及や、簿記の基礎知識の習得を目的としています。もちろん、一般の方も受験できますが、高校の授業で簿記を学ぶ過程で受験することが多いため、より基礎的な内容から段階的に学べるように設計されているのが特徴です。
まとめると、
- 日商簿記:実務重視、企業での活躍を目指す人向け
- 全商簿記:基礎学習、商業高校生など学生の学習成果測定
という違いがあります。
級の構成と難易度の違い
次に、級の構成と難易度についても違いがあります。日商簿記は、3級、2級、1級とありますが、一般的に「日商簿記」というと3級と2級がよく受験されています。3級は基本的な仕訳や財務諸表の作成、2級になると工業簿記も加わり、より高度な財務諸表の分析などが求められます。1級はさらに難易度が上がり、税法や原価計算の専門知識も必要となります。
全商簿記には、簿記、原価計算、計算実務の3部門があり、それぞれに1級、2級、3級があります。簿記部門の1級は、日商簿記2級と同等かそれ以上の難易度と言われることもありますが、全体的に見ると、日商簿記の方がより高度で実務に近い内容を扱っている傾向があります。
それぞれの級のレベル感は以下のようになります。
| 日商簿記 | 全商簿記(簿記部門) | 難易度イメージ |
|---|---|---|
| 3級 | 3級 | 基礎知識 |
| 2級 | 2級 | 実務に近づく |
| 1級 | 1級 | 高度な専門知識 |
学習内容と出題範囲の違い
学習内容と出題範囲にも違いが見られます。日商簿記3級では、個人商店の簿記を中心に、日々の取引の記録方法や簡単な財務諸表(損益計算書、貸借対照表)の作成方法を学びます。日商簿記2級になると、株式会社の簿記が中心となり、決算整理事項や、工業簿記(製造業の原価計算)の基礎も学習します。
一方、全商簿記の簿記部門では、級が上がるにつれて学習範囲が広がります。3級では、基本的な仕訳や勘定科目、帳簿の記入方法などを中心に学びます。2級になると、伝票式簿記や、より複雑な取引の処理、そして簡単な財務諸表の作成まで範囲が広がります。1級では、さらに高度な論点や、企業会計の原則に基づいた処理が求められます。
学習内容を比較すると、
- 日商簿記:実務でよく使われる勘定科目や処理方法を重視。
- 全商簿記:簿記の全体像を段階的に理解できるように工夫されている。
という特徴があります。
試験形式と合格基準の違い
試験形式も、両者で違いがあります。日商簿記は、マークシート方式と記述式が組み合わされています。3級と2級は、理論問題と計算問題があり、配点も決まっています。合格基準は、どちらも70点以上です。
全商簿記の簿記部門では、級によって試験形式が異なります。例えば、2級では理論問題と計算問題があり、1級ではさらに高度な記述式の問題も出題されます。合格基準も、70点以上が一般的ですが、級によっては一部科目合格制度がある場合もあります。
試験形式をまとめると、
- 日商簿記:理論と計算のバランスが良い。
- 全商簿記:級によって形式が多様化する。
といった違いがあります。
取得後のメリットと活かし方の違い
資格を取得した後のメリットや活かし方にも違いがあります。日商簿記は、企業が即戦力となる人材を求める際に、その能力を判断する基準として採用されることが多いです。特に2級以上を取得していると、経理部門での就職や昇進に有利に働くことが期待できます。また、税理士や公認会計士を目指す上での基礎知識としても役立ちます。
全商簿記は、商業高校生などが学習の成果を証明するのに役立ちます。将来、簿記や会計に関わる仕事に就きたいと考えている人にとっては、基礎力を養うための良いステップとなります。また、学校によっては、単位認定の対象になったり、卒業に必要な資格として設定されていたりすることもあります。
どちらの資格も、簿記の知識を身につけるという点では共通していますが、
- 日商簿記:実社会での評価が高い。
- 全商簿記:学習の進捗確認や、学生のキャリア形成をサポート。
という特徴があります。
学習教材と勉強方法の違い
学習教材や勉強方法も、どちらの資格を目指すかによって変わってきます。日商簿記の教材は、市販されているものも非常に多く、書店やオンラインで手軽に入手できます。独学で進める人もいれば、専門学校や通信講座などを利用する人もいます。実務を想定した問題集や、過去問を解くことが効果的な勉強法と言われています。
全商簿記は、商業高校などで教科書や問題集が用意されていることが一般的です。独学で学習する場合は、全商協会のウェブサイトで過去問題などを入手できる場合もあります。基本的には、学校の授業でしっかり復習し、段階的に知識を定着させていくのが良いでしょう。
学習教材と勉強法については、
- 日商簿記:独学や専門学校など、多様な学習スタイルに対応。
- 全商簿記:学校での学習が中心となることが多い。
という傾向があります。
まとめ:自分に合った簿記資格を選ぼう!
ここまで、日商簿記と全商簿記の違いについて解説してきました。どちらの資格が優れているというわけではなく、それぞれに異なる目的と特徴があります。もし、あなたが将来、企業で経理の仕事に就きたい、あるいはキャリアアップを目指したいと考えているのであれば、日商簿記の取得がおすすめです。一方、高校生などで、まずは簿記の基礎をしっかり学びたい、学習の成果を証明したいという場合は、全商簿記から始めるのも良いでしょう。
最終的には、ご自身の目標や学習スタイルに合わせて、最適な資格を選ぶことが大切です。どちらの資格も、簿記の知識を身につけることで、ビジネスの世界で役立つスキルを習得できることは間違いありません。