ISO 2008 と 2015 の 違い:進化する品質管理のポイントを徹底解説

ISO規格は、私たちの身の回りの製品やサービスが一定の品質基準を満たしていることを保証してくれる、とっても大切なものです。特に「ISO 9001」という規格は、品質マネジメントシステムの国際規格として有名ですが、実はこの規格も時代に合わせて見直されています。今回は、そんなISO 9001の「2008年版」と「2015年版」の主な違いに焦点を当て、その進化についてわかりやすく解説していきます。 iso 2008 と 2015 の 違い を理解することは、企業がより効果的に品質管理を行う上で非常に重要です。

根本的な考え方の変化:リスクベース思考の導入

ISO 2008版から2015年版への移行で最も大きな変化の一つは、「リスクベース思考」がより重視されるようになったことです。これは、単に問題が起きてから対処するのではなく、起こりうるリスクを事前に想定し、それらを未然に防いだり、影響を最小限に抑えたりするための仕組みを組織全体で考える、という考え方です。以前の規格でもリスク管理は含まれていましたが、2015年版ではより明確に、そして組織のあらゆる活動において不可欠な要素として位置づけられました。

  • リスクベース思考の重要性:
  • 将来起こりうる問題を予測し、 proactively に対策を打つことで、
  • 品質の低下を防ぎ、顧客満足度を向上させることができます。
  • また、予期せぬトラブルによるコスト増大や信頼失墜のリスクを減らすことにも繋がります。

このリスクベース思考は、単なる「チェックリストを埋める」作業から、「組織の戦略と品質マネジメントを統合する」という、より実践的で戦略的なアプローチを求めています。企業は、自社の活動における潜在的なリスクを特定し、それらを評価し、適切な対策を講じる必要があります。

ISO 2008版 ISO 2015年版
リスク管理は、特定のプロセスや手順として扱われることが多かった。 リスクベース思考は、組織の戦略的計画の一部として、より広範に統合されるべきものとなった。
問題発生後の是正処置に重点が置かれがちだった。 問題発生の予防と機会の活用が、より重要視されるようになった。

文書化要求の変化:柔軟性の向上

ISO 2008年版では、品質マニュアルや手順書など、特定の文書化された情報が強く求められていました。しかし、ISO 2015年版では、この文書化に関する要求がより柔軟になりました。組織は、自社の規模や複雑さ、提供する製品・サービスの性質に合わせて、必要な文書化のレベルを決定できるようになりました。

つまり、「こういう書類は必ず作らなければいけない」という固定的なルールが減り、「組織が効果的に運用するために必要な情報は、分かりやすい形で記録・維持しましょう」という考え方に変わったのです。これは、特に中小企業にとっては、過度な文書作成の負担を減らし、より実質的な活動にリソースを集中できるようになったという点で大きなメリットと言えます。

  1. 柔軟な文書化のポイント:
  2. 組織のニーズと、製品・サービスの特性に合わせた文書化。
  3. 「必要な情報を、必要な形式で」管理することの重視。
  4. 過去の規格よりも、ITツールなどを活用した効率的な情報管理が推奨される。

ただし、柔軟になったからといって、文書化が不要になったわけではありません。重要なのは、組織が品質マネジメントシステムを理解し、維持・改善していくために、どのような情報が必要かを見極めることです。記録がないと、後から「あの時どうだったっけ?」となった場合に、原因究明や改善が難しくなる可能性もあります。

リーダーシップの役割強化

ISO 2015年版では、組織のトップであるリーダーシップの役割が、より一層強調されるようになりました。単に品質管理部門の責任というだけでなく、経営層が品質マネジメントシステムに積極的に関与し、その有効性を推進することが求められています。これは、組織全体の文化として品質を重視する姿勢を醸成するために不可欠です。

経営層は、品質方針を定め、目標を設定し、必要なリソースを確保するなど、品質マネジメントシステムが組織の戦略に沿って機能するように主導的な役割を果たす必要があります。これにより、品質管理が単なる「ルールを守るための活動」ではなく、「組織の成長と競争力強化に貢献する活動」へと進化します。

「外部提供プロセス」と「製品・サービス」の包含

ISO 2015年版では、組織が管理する範囲がより明確になりました。具体的には、自社内だけでなく、外部のサプライヤーに委託しているプロセス(外部提供プロセス)や、提供する製品・サービスそのものについても、品質マネジメントシステムの管理下におくことがより明確に要求されています。

これは、製品やサービスの品質は、自社内だけの努力では決まらないという現実を反映しています。いくら自社で品質管理をしっかり行っていても、外部から調達する部品の品質が悪かったり、委託先のサービスが悪かったりすれば、最終的な顧客満足度には影響が出てしまいます。そのため、サプライヤーとの関係管理や、外部委託プロセスの管理も、品質マネジメントシステムの中でしっかり行うことが重要視されています。

  • 外部提供プロセスと製品・サービスの管理:
  • サプライヤーの選定、評価、監視の重要性。
  • 委託する業務内容の明確化と、その品質基準の設定。
  • 最終製品・サービスにおける、自社管理部分と外部委託部分の境界線の明確化。

「パフォーマンス」という概念の導入

ISO 2015年版では、「パフォーマンス」という概念が導入され、品質マネジメントシステムの有効性を継続的に評価し、改善していくことがより強く求められるようになりました。これは、単に規定された手順が実行されているかだけでなく、そのシステムが実際にどれだけの成果を上げているのか、という視点が加わったことを意味します。

組織は、設定した目標に対して、どの程度達成できているのか、顧客満足度はどうか、プロセスは効率的に回っているか、などを定期的に監視・測定し、その結果に基づいて改善策を講じる必要があります。この「PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)」の考え方が、より実質的なものとして追求されるようになりました。

「購買」から「管理された外部提供」への用語変更

ISO 2008年版では、外部から調達する品物やサービスに関する要求事項は、「購買」という言葉で表現されていました。しかし、ISO 2015年版では、この用語が「管理された外部提供」に変更されました。この変更は、単なる言葉の置き換えではなく、その意味合いをより広範かつ包括的に捉え直したものです。

「管理された外部提供」は、単に「ものを買う」という行為だけでなく、外部の組織に業務を委託したり、サービスをアウトソーシングしたりする全ての場合を含みます。そして、それらの外部とのやり取りが、組織の品質マネジメントシステム全体の中で、適切に管理されていることを要求しています。これにより、組織は自社のコントロールが及ぶ範囲をより意識し、外部との連携におけるリスクを管理することが促されます。

まとめ:より実践的で戦略的な品質管理へ

このように、ISO 9001の2008年版から2015年版への改訂は、単なるルールの変更にとどまらず、品質管理に対する考え方そのものを進化させています。リスクベース思考の導入、文書化要求の柔軟化、リーダーシップの強化、外部提供プロセスの管理、パフォーマンスの重視、そして用語の変更など、これらの変化はすべて、企業がより効果的かつ戦略的に品質マネジメントシステムを運用できるようにするためのものです。

2015年版への対応は、企業にとって、単に規格を満たすためだけでなく、持続的な成長と競争力強化のための重要なステップとなります。これらの違いを理解し、自社の品質マネジメントシステムを見直していくことが、これからの企業活動においてますます重要になるでしょう。

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