広汎 性 発達 障害 と 自 閉 症 の 違い を わかりやすく解説!

「広汎性発達障害」と「自閉症」について、その違いを正しく理解することは、周りの人々がより良いサポートをするためにとても大切です。「広汎性発達障害と自閉症の違い」を、専門用語を避けつつ、わかりやすく丁寧にお伝えしていきます。

広汎性発達障害と自閉症:歴史的背景と診断名の変化

昔は、「自閉症」という言葉が、発達障害のある方を表す言葉として広く使われていました。しかし、研究が進むにつれて、一人ひとりの特性が多様であることがわかってきました。そこで、より広い範囲の発達の特性を捉えるために「広汎性発達障害」という言葉が使われるようになったのです。 この言葉の変化は、発達障害への理解を深める上で非常に重要なポイントです。

  • 過去の診断名:
    • 自閉症
    • レット障害
    • 小児期崩壊性障害
    • アスペルガー症候群
  • 現在の診断名(DSM-5より):
    • 自閉スペクトラム症(ASD)

現在では、「広汎性発達障害」という枠の中に含まれていた様々な診断名が、「自閉スペクトラム症(ASD)」という一つの大きなカテゴリーにまとめられています。これは、これらの特性が連続的で、明確な境界線がないことを表しています。

以前の名称 現在の名称
広汎性発達障害 自閉スペクトラム症(ASD)
アスペルガー症候群 自閉スペクトラム症(ASD)の一部

自閉スペクトラム症(ASD)の主な特性

自閉スペクトラム症(ASD)は、大きく分けて「社会的コミュニケーションの困難」と「限定された興味や反復行動」という二つの柱で理解されます。これは、障害の有無ではなく、その方の「ものの感じ方」や「情報の受け取り方」が、周りの人と少し違うということを意味します。

  1. 社会的コミュニケーションの困難:
    • 相手の気持ちを読み取ることが難しい
    • 表情や声のトーンから意図を理解するのが苦手
    • 言葉だけでなく、非言語的なコミュニケーション(ジェスチャーやアイコンタクト)も苦手
    • 慣れない場所や人との関わりで、緊張したり不安になったりしやすい
  2. 限定された興味や反復行動:
    • 特定の物事に対して強いこだわりを持つ
    • 決まった手順やパターンを好む
    • 突然の予定変更や環境の変化に抵抗を感じる
    • 感覚過敏(音、光、匂いなどに過剰に反応する)や感覚鈍麻(痛みなどを感じにくい)がある

これらの特性は、一人ひとりで現れ方が大きく異なります。同じ「ASD」という診断名でも、得意なことや苦手なことは人それぞれです。だからこそ、その方の個性や強みを見つけ、それを活かせるようにサポートすることが大切なのです。

「広汎性発達障害」と「自閉症」の歴史的な繋がり

「広汎性発達障害」という言葉が使われ始めた背景には、自閉症の理解が深まったことが大きく関係しています。「自閉症」という言葉は、もともと1940年代にオーストリアの小児科医であるハンス・アスペルガーが提唱した「自閉精神病質」や、アメリカの精神科医レオ・カナーが提唱した「小児自閉症」という概念から始まりました。これらの研究は、子どもたちの社会的な関わりやコミュニケーションの独特さに注目したものでした。

  • 初期の自閉症研究:
    • 他者との関わりが極端に少ない
    • 言葉の発達が遅れる、あるいは独特
    • 特定の物事への強いこだわり
  • 広汎性発達障害という概念の登場:
    • 自閉症の特性を持ちながらも、知的発達に遅れがない場合(アスペルガー症候群など)も含まれるようになった
    • より広い範囲の発達の特性を包括的に捉えるための言葉として普及

「広汎性発達障害」は、自閉症の診断基準が拡大解釈される形で、より多様な特性を持つ人々を包括する用語として機能しました。これは、発達障害への理解が「固定された病気」から「多様な個性」へとシフトしていく過渡期を象徴しています。

診断基準の変遷:DSM-IIIからDSM-5へ

発達障害の診断基準は、時代とともに見直されてきました。特に、アメリカ精神医学会が発行する精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)の改訂は、国際的な診断の標準化に大きな影響を与えています。かつては、「自閉症」「アスペルガー症候群」「レット障害」などが個別の診断名として存在していましたが、DSM-5(2013年発行)で、これらは「自閉スペクトラム症(ASD)」という一つのカテゴリーに統合されました。

DSM-IV(改訂版)まで DSM-5以降
広汎性発達障害(自閉症、アスペルガー症候群、レット障害など) 自閉スペクトラム症(ASD)

この変更は、これらの障害の特性が連続的であり、明確に区別することが難しいという研究結果に基づいています。つまり、「広汎性発達障害」という大きな傘の下にあったものが、「自閉スペクトラム症」という、よりグラデーションで理解される障害像へと移行したのです。

「広汎性発達障害」と「自閉症」の名称の使い分け

現在、医療現場や教育現場では、「自閉スペクトラム症(ASD)」という名称が主流となっています。しかし、これまでの歴史的経緯から、まだ「広汎性発達障害」という言葉が使われることもあります。特に、古い文献や、特定の専門家の間では、その名残が見られることがあります。

  1. 「自閉スペクトラム症(ASD)」:
    • 現在の国際的な診断基準(DSM-5)に基づいた正式名称。
    • 特性の連続性(スペクトラム)を重視し、多様な現れ方をする障害を包括的に捉える。
  2. 「広汎性発達障害」:
    • DSM-IV以前の診断名や、その概念を指す場合に使われることがある。
    • 「自閉症」だけでなく、それに近い様々な発達の特性を広く指す言葉。

重要なのは、名称がどうであれ、その方が持つ個々の特性やニーズを理解し、適切な支援を行うことです。名称にこだわりすぎるのではなく、その人自身に焦点を当てることが大切です。

アスペルガー症候群は「広汎性発達障害」にどう位置づけられるか

アスペルガー症候群は、かつて「広汎性発達障害」の中でも、知的発達に遅れがなく、言語発達の遅れも目立たない場合に診断されることが多かった特性です。しかし、DSM-5からは、アスペルガー症候群という独立した診断名はなくなり、「自閉スペクトラム症(ASD)」の診断基準に含まれることになりました。

  • アスペルガー症候群の主な特性(以前の診断):
    • 社会的なコミュニケーションや対人関係における困難
    • 限定された興味や活動
    • 常同的な行動や、変化への抵抗
    • 知的発達や言語発達に遅れがない、あるいは顕著ではない
  • 現在の「自閉スペクトラム症(ASD)」との関係:
    • アスペルガー症候群の特性は、ASDの特性の一部として捉えられる。
    • ASDの診断レベル(1〜3)で、比較的軽度な特性を示す場合や、特定分野での高い能力を示す場合などに、以前のアスペルガー症候群に類似した特性が現れることがある。

つまり、アスペルガー症候群は、「広汎性発達障害」という大きな枠組みの中で、特定の性質を持ったものとして位置づけられていましたが、現在はASDというより大きな傘の下で、その特性が理解されるようになっています。

まとめ:本質的な理解のために

「広汎性発達障害」と「自閉症」、そして現在の「自閉スペクトラム症(ASD)」という言葉の変遷を通して、発達障害への理解がどのように深まってきたかがわかります。大切なのは、これらの名称に囚われすぎず、一人ひとりの個性や、どのようなサポートが必要なのかを理解しようとすることです。周りの温かい理解と適切なサポートがあれば、発達障害のある方も、その能力を最大限に発揮し、豊かな人生を送ることができます。

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