「疾患」と「疾病」、どちらも病気のことだと思っていませんか?実は、この二つの言葉には、使われる場面やニュアンスにちょっとした違いがあるんです。この違いを理解することで、より正確に、そして自然に言葉を使えるようになります。今回は、「疾患」と「疾病」の知っておきたい「疾患 と 疾病 の 違い」について、分かりやすく解説していきます。
「疾患」と「疾病」の基本的な捉え方
まず、大まかに言うと、「疾患」は病気そのものの原因やメカニズム、病態に焦点が当てられることが多い言葉です。「疾病」は、病気によって引き起こされる心身の機能低下や、それによる社会生活への影響、つまり「病気になっている状態」そのものを指すことが多いです。 この違いを理解することが、正確なコミュニケーションの第一歩となります。
例えば、「生活習慣病」という言葉を聞いたことがあると思いますが、これは「高血圧」「糖尿病」「脂質異常症」といった個々の病名(疾患)の集まりとして捉えられます。一方、「疾病」という言葉を使うときは、単に病名としてではなく、「現在、〇〇という疾病に罹患しており、治療を受けている」のように、病気によって生活に影響が出ている状態を表す場合が多いのです。
これらの違いを、もう少し具体的に見ていきましょう。
- 疾患(しっかん):
- 病気の原因や発症のメカニズム、病気の性質そのものを指す場合が多い。
- 例:「遺伝性疾患」「自己免疫疾患」
- 疾病(しっぺい):
- 病気にかかっている状態、病気によって心身の機能が損なわれている状態を指す場合が多い。
- 例:「難病指定疾病」「感染性疾病」
「疾患」と「疾病」の使い分け~医療現場での視点
医療の現場では、「疾患」と「疾病」は、それぞれの言葉が持つニュアンスを活かして使い分けられています。「疾患」は、病気の分類や診断名として使われることが多く、例えば「〇〇疾患の治療法」といった場合は、その病気自体の特徴や進行をどう抑えるか、といったことに注目が集まります。
一方、「疾病」は、病気による苦痛や、それが生活に与える影響、つまり患者さんの「病気であること」に焦点を当てる場合に使われやすいです。例えば、「疾病による就労支援」という場合は、病気そのものだけでなく、病気のために働けなくなってしまう、といった社会的な側面も含まれています。
さらに、「疾病」は、集団全体がかかりやすい病気や、社会的な問題として捉える場合にも使われます。例えば、「国民の〇〇疾病罹患率」といった統計の話をする際に、「疾病」が用いられることが多いのです。これは、個々の病名だけでなく、病気という現象全体を捉えようとする意図があります。
このように、医療現場では、より専門的かつ的確な表現をするために、これらの言葉が意識的に使われています。
| 言葉 | 主な焦点 | 使用例 |
|---|---|---|
| 疾患 | 病気の原因、メカニズム、病態 | 癌(がん)疾患、循環器疾患 |
| 疾病 | 病気にかかっている状態、心身の機能低下、社会生活への影響 | 精神疾患、感染症疾病 |
日常会話での「疾患」と「疾病」~どっちを使えばいい?
日常生活で「疾患」と「疾病」を厳密に使い分ける必要は、ほとんどありません。多くの場合は、「病気」という言葉で十分伝わります。しかし、もし少しでも意識して使いたい場合は、以下のように考えると良いでしょう。
「疾患」という言葉は、比較的、病名そのものを指したり、病気の種類を説明したりする際に使われやすい傾向があります。例えば、「最近、〇〇という疾患について勉強しているんだ」という場合、その病気の原因や治療法といった、病気自体の性質に興味があるのかもしれません。
対して「疾病」は、「病気であること」や、病気によって生活が大変な状況を指す際に使われることが多いです。「〇〇という疾病にかかってしまい、しばらく休むことになりました」のように、病気による影響を伝えたいときに使われることがあります。
ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、絶対的なルールではありません。例えば、ニュースなどで「感染性疾病」という言葉を聞くことがあると思いますが、これは感染する病気全体を指す言葉として使われています。このように、文脈によって意味合いが変わることもあるのです。
迷ったときは、「病気」という言葉を使うのが一番安全で分かりやすいでしょう。しかし、少しでも医学的な話題に触れる機会があれば、「疾患」と「疾病」のニュアンスの違いを思い出してみると、より理解が深まるはずです。
「疾患」と「疾病」の類義語との比較
「疾患」や「疾病」と似た言葉に、「病気(びょうき)」、「病(やまい)」、「障害(しょうがい)」などがあります。それぞれの言葉がどのようなニュアンスを持っているかを知っておくと、さらに言葉の使い分けが明確になります。
「病気」は、最も一般的で広範囲に使われる言葉です。医学的な専門用語というよりは、日常会話で広く使われます。風邪をひいたときから、慢性的な病気まで、幅広く「病気」と表現できます。
「病(やまい)」は、「病気」よりも少し古風な響きを持つ言葉で、文学作品などで使われることもあります。また、比喩的に「〇〇という病(やまい)にかかっている」のように、ある状態に強く囚われている様子を表すこともあります。
「障害」は、病気や怪我によって、身体や精神の機能が損なわれ、日常生活や社会生活を送る上で困難が生じている状態を指します。病気そのものだけでなく、その結果として生じる機能的な制限に焦点が当たっています。
「疾患」と「疾病」は、この「病気」という広い概念の中で、より専門的な視点や、病態、状態といったニュアンスを加えて表現する言葉と言えます。
- 病気: 最も一般的で広い意味。
- 病(やまい): 古風な響き、比喩的な表現にも使われる。
- 障害: 機能の制限と、それに伴う困難に焦点。
- 疾患: 病気そのものの原因やメカニズム。
- 疾病: 病気にかかっている状態、その影響。
「疾患」と「疾病」の単語が使われる場面
「疾患」や「疾病」という言葉は、どのような場面で使われることが多いのでしょうか。知っておくと、これらの言葉が出てきたときに、その意図を理解しやすくなります。
まず、「疾患」は、医学論文や学会発表、専門書などでよく見られます。例えば、「〇〇疾患の病態生理に関する最新の研究」といったタイトルで、病気のメカニズムについて深く掘り下げて説明する際に使われます。また、病気の名前としても「〇〇疾患」と使われることが多いです。例:「神経変性疾患」「消化器疾患」など。
一方、「疾病」は、公衆衛生や疫学(感染症などの流行を研究する学問)の分野でよく登場します。例えば、「〇〇疾病の予防対策」「〇〇疾病の有病率」といったように、集団全体における病気の問題や、その広がりを論じる際に使われます。また、社会福祉や医療制度に関する議論でも、「疾病」という言葉が使われることがあります。
さらに、行政が発表する資料や、法律、規則などでも、これらの言葉が使われることがあります。例えば、「特定疾患医療費助成制度」のように、国の制度名などに「疾患」が使われたり、「感染症の予防及び感染症の検診に関する法律」のように、法律名に「疾病」が使われたりしています。
- 医学・研究分野: 病気のメカニズムや分類について深く掘り下げる際(「疾患」)。
- 公衆衛生・疫学分野: 集団における病気の問題や流行を分析する際(「疾病」)。
- 行政・法律分野: 制度名や法律名として、病気に関する定義や規制を示す際(「疾患」「疾病」両方)。
「疾患」と「疾病」~それぞれの英訳とそのニュアンス
英語で「疾患」や「疾病」に相当する言葉はいくつかありますが、代表的なのは "disease" と "illness" です。この二つの単語も、日本語の「疾患」と「疾病」が持つニュアンスと似ている部分があります。
"Disease" は、医学的な観点から見た病気、つまり、原因、病状、身体的な異常などを指すことが多いです。これは、日本語の「疾患」が持つ、病気そのもののメカニズムや性質に焦点を当てるニュアンスと近いと言えます。例えば、"heart disease"(心臓病)のように、具体的な病名を指す場合に使われます。
一方、"Illness" は、病気にかかっている本人が感じる苦痛や不快感、つまり「病気であること」や、それによって生活に影響が出ている状態を指すことが多いです。これは、日本語の「疾病」が持つ、病気によって心身の機能が損なわれている状態や、社会生活への影響を指すニュアンスと似ています。
したがって、英訳を考える際にも、日本語の「疾患」と「疾病」の違いを意識すると、より正確な意味合いを理解することができます。ただし、文脈によっては、これらの単語が重なって使われることもありますので、注意が必要です。
| 日本語 | 主な英訳 | ニュアンス |
|---|---|---|
| 疾患 | Disease | 病気の原因、メカニズム、病態 |
| 疾病 | Illness | 病気にかかっている状態、心身の機能低下、社会生活への影響 |
まとめ:意識することで広がる言葉の世界
「疾患」と「疾病」の違いについて、ここまで解説してきました。どちらも病気に関することですが、「疾患」は病気そのものの性質に、「疾病」は病気にかかっている状態やその影響に、より焦点を当てて使われることが多いということがお分かりいただけたかと思います。日常会話では、そこまで厳密に使い分ける必要はありませんが、これらの言葉が使われている文脈を理解することで、より深く、正確に情報を捉えることができるようになります。言葉のニュアンスを意識することで、コミュニケーションの世界はさらに豊かになりますね。