褒章 と 叙勲 の 違い:知っておきたい日本の栄典制度の基礎知識

「褒章」と「叙勲」、どちらも国が功績を称えるために与えられるものですが、その目的や対象、そして与えられるものが異なります。 褒章 と 叙勲 の 違い を理解することは、日本の社会における栄典制度の基本的な部分を知る上で非常に重要です。この記事では、それぞれの制度について詳しく解説し、その違いを明確にしていきます。

褒章と叙勲、それぞれの「目的」に迫る

まず、褒章と叙勲の最も大きな違いはその「目的」にあります。褒章は、社会で功労があった人や、特定の分野で優れた行いを成し遂げた人に対して、その善行や功績を称えるために与えられるものです。例えば、長年地域のために尽力した方、危険を顧みずに人命を救った方などが対象となります。

一方、叙勲は、国や公共のために功績を立てた人に対して、その功績の大きさに応じて与えられるものです。これは、長年にわたる公務や、文化・学術・芸術などの分野における顕著な貢献など、より国家的・社会的なレベルでの功績が評価される傾向があります。つまり、褒章が個人の善行や特定の功績を称える側面が強いのに対し、叙勲はより広範で長期的な国への貢献を評価する側面が強いと言えます。

ここで、それぞれの特徴を簡単にまとめた表を見てみましょう。

制度 主な目的 対象
褒章 善行や特定の功績を称える 社会貢献、人命救助など
叙勲 国や公共への長年の功績を称える 公務、文化、学術、芸術など

褒章の種類とその対象

褒章には、その功績の内容によって様々な種類があります。代表的なものとしては、以下のようなものがあります。

  • 紅綬褒章(こうじゅほうしょう): 自己の省みない行為によって、人命の救助や公共の利益に貢献した人に与えられます。
  • 藍綬褒章(らんじゅほうしょう): 会社の設立や発展に尽力した人、学術・芸術・社会福祉などの分野で功績があった人に与えられます。
  • 黄綬褒章(おうじゅほうしょう): 農林水産業、商業、工業などの分野で、他者の模範となるような技術や事績のある人に与えられます。
  • 緑綬褒章(りょくじゅほうしょう): 自主的な奉仕活動などに長年従事し、地域社会などに貢献した人に与えられます。
  • 紺綬褒章(こんじゅほうしょう): 寄付などによって、学術・技芸・慈善などの分野で功績があった人に与えられます。

このように、褒章は、日常生活の中で光る個人の善行や、特定の分野での努力を具体的に称えるための制度と言えます。例えば、地域のお祭りのために長年ボランティア活動をしている方や、小さな商店を地域のために一生懸命経営している方が、これらの褒章を受け取ることがあります。

各褒章の対象となる具体的な事例をいくつか見てみましょう。

  1. 紅綬褒章: 火事から子供を助けた人、海で溺れている人を救助した人。
  2. 藍綬褒章: 長年、NPO法人で地域の子供たちのための活動を続けた人、地域の文化財保護に貢献した人。
  3. 黄綬褒章: 独自の発明で地域産業を活性化させた中小企業の経営者、長年、伝統工芸の技術を伝承し発展させた職人。

叙勲の等級と位階

叙勲には、功績の度合いに応じて定められた「勲等(くんとう)」と、それに伴う「勲位(くんい)」があります。勲等は1等から6等まであり、1等叙勲が最も高い位となります。そして、それぞれの勲等には、さらに「勲一等」「勲二等」といったように「等」が付き、さらに「勲章」の種類も細かく分かれています。

例えば、叙勲の制度は、以下のような等級で構成されています。

  • 勲一等(くんいっとう)
  • 勲二等(くんにとう)
  • 勲三等(くんさんとう)
  • 勲四等(くんよんとう)
  • 勲五等(くんごとう)
  • 勲六等(くんろくとう)

それぞれの等級には、さらに「旭日大綬章(きょくじつだいじゅしょう)」や「瑞宝大綬章(ずいほうだいじゅしょう)」といった、美しいデザインの勲章が授与されます。これらの勲章は、長年にわたる公務や、社会への多大な貢献の証として、その功績の大きさを視覚的にも表しています。

叙勲の等級と、それに付随する代表的な勲章をいくつか例として挙げます。

勲等 代表的な勲章 功績の例
勲一等 旭日桐花大綬章、瑞宝大綬章 長年にわたる内閣総理大臣、最高裁判所長官などの職務
勲二等 旭日重光章、瑞宝重光章 長年にわたる国会議員、大臣、大学教授など
勲三等 旭日中綬章、瑞宝中綬章 長年にわたる地方自治体の首長、高等裁判所長官、教授など

褒章と叙勲、いつ、誰が授与するのか?

褒章と叙勲は、どちらも国の制度として、内閣の決定を経て、天皇陛下から授与されます。ただし、授与されるまでのプロセスや、授与される場所には違いがあります。

褒章は、主に個人や団体からの推薦に基づき、内閣府の褒章担当部署が審査を行います。そして、その功績が認められた場合に、各省庁の担当部署を通じて、授与の決定がなされます。授与式は、皇居で行われる場合もありますが、国会や、地方自治体などで行われることもあります。

一方、叙勲は、より厳格な基準に基づいて行われます。候補者は、各省庁や関係団体からの推薦、あるいは政府内の検討を経て選考されます。そして、内閣総理大臣の承認を得た上で、天皇陛下に奏上され、最終的に決定されます。叙勲の授与式は、原則として皇居で行われます。

授与されるタイミングについても、褒章は功績の発生から比較的早い段階で授与されることが多いのに対し、叙勲は長年の功績が積み重なった結果として、ある程度の年齢に達してから授与されることが多いという傾向があります。

褒章と叙勲、受け取った後にどうなる?

褒章や叙勲を受け取った場合、それはその人の功績が公に認められた証となります。褒章は、その善行や功績が人々に知られるきっかけとなり、社会全体の模範となります。また、叙勲を受けた場合は、その功績が国の歴史に刻まれることになります。

特に叙勲を受けた方には、一般的に「勲記(くんき)」と呼ばれる賞状と、実際の「勲章」が授与されます。勲記には、授与された日付、勲等、そして功績の内容が記されており、勲章は、その功績の証として身につけることができます。これらの授与品は、その方の栄誉の証として、大切に保管されることが多いです。

褒章の場合も、受賞者には「褒状(ほうじょう)」と呼ばれる賞状が授与されます。勲章のような装飾品はありませんが、その功績を称えるための正式な賞状です。

また、叙勲を受けた方には、一般的に「年金」や「一時金」といった経済的な恩典が与えられる場合があります。これは、長年にわたる国への貢献に対する感謝の意を示すものです。褒章については、原則として経済的な恩典はありません。

褒章と叙勲、どちらが「上」なのか?

「褒章と叙勲、どちらがより偉いのか?」という疑問を持つ人もいるかもしれません。しかし、どちらが「上」という単純な比較はできません。なぜなら、それぞれの制度が持つ「目的」が異なるからです。

褒章は、個人の善行や特定の功績を称えることに重きを置いています。そのため、例えば、地域のために長年ボランティア活動を続けた一般市民の方でも、その貢献が認められれば紅綬褒章などの名誉ある褒章を受けることができます。これは、誰もが社会に貢献し、その功績を称えられる可能性があることを示しています。

一方、叙勲は、国や公共のための長期にわたる顕著な功績が評価されます。そのため、叙勲を受ける方は、社会的に大きな影響力を持っていたり、長年にわたり重要な役職に就いていたりすることが多いです。これは、より広範な社会貢献や、公的な立場での功績が評価されることを意味します。

したがって、どちらの制度が「上」というわけではなく、それぞれが日本の社会において異なる役割を果たし、異なる種類の功績を称えていると理解することが大切です。

褒章と叙勲の主な違いを、改めて箇条書きで整理してみましょう。

  • 目的: 褒章は善行や特定の功績、叙勲は国や公共への長年の功績。
  • 対象: 褒章は個人の善行や特定の分野での活躍、叙勲はより広範な社会貢献や公職経験者など。
  • 授与品: 褒章は褒状、叙勲は勲記と勲章。
  • 経済的恩典: 叙勲には年金や一時金がある場合があるが、褒章には原則ない。

このように、褒章と叙勲には、それぞれ異なる特徴と意義があります。どちらも、社会に貢献した人々への敬意と感謝の念を表す大切な制度です。これらの違いを理解することで、日本の社会における栄誉や功績の捉え方について、より深く知ることができるでしょう。

褒章と叙勲は、日本の社会が大切にしている「功績を称える」という文化の表れです。この記事を通じて、それぞれの制度の目的や特徴、そしてその違いが少しでも明確になれば幸いです。これらの制度を知ることは、社会で活躍する人々への敬意を深めることにもつながります。

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