HACCPとISO22000の違い:食品安全の鍵を握る二つの規格を徹底解説!

食品の安全性を確保するためのシステムとして、HACCPとISO22000という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。では、この二つにはどのような違いがあるのでしょうか?今回は、HACCPとISO22000の違いを分かりやすく解説し、それぞれの役割と重要性について掘り下げていきます。

HACCPとISO22000:基本となる考え方の違い

HACCP(ハサップ)は、「Hazard Analysis and Critical Control Point」の略で、食品を作る過程で起こりうる危害(ハザード)を分析し、特に重要な工程(重要管理点:CCP)を管理することで、食中毒などのリスクを未然に防ぐための予防的な管理システムです。これは、食品の製造・加工・流通・販売といったあらゆる段階で適用できる考え方であり、国際的にも認められています。

一方、ISO22000は、HACCPの考え方をベースにしつつ、より包括的な食品安全マネジメントシステム(FSMS)として国際標準化された規格です。HACCPの7原則12手順を統合し、さらに組織全体のコミュニケーションやシステム管理、外部機関との連携なども含めた、より広範な要求事項が含まれています。 食品安全の確保において、この両者の違いを理解することは、企業が適切なシステムを構築・運用する上で非常に重要です。

  • HACCP:危害分析と重要管理点に焦点を当てた「手法」
  • ISO22000:HACCPを包含し、より広範なマネジメントシステムとしての「規格」

HACCPが個別の食品や工程に焦点を当てるのに対し、ISO22000は組織全体の食品安全への取り組みをシステムとして管理することを目指しています。

HACCPの7原則12手順とは?

HACCPの根幹をなすのが、以下の7原則12手順です。これらは、科学的根拠に基づき、食品の安全性を確保するための具体的なステップを示しています。

  1. 危害分析(Hazard Analysis)
  2. 重要管理点(CCP)の特定
  3. 一般衛生管理プログラム(PRP)の確立
  4. 管理基準(CL)の設定
  5. CCPの監視・モニタリング方法の設定
  6. 逸脱した場合の是正措置の設定
  7. 検証手順の設定
  8. 記録・保管手順の設定

この7原則は、さらに12の手順に細分化され、より詳細な実施方法が示されています。例えば、危害分析では、生物的、化学的、物理的な危害の特定と評価を行います。そして、特定された危害を管理するために、CCPを設定し、その管理基準を定めます。

これらの原則と手順は、食品の製造・加工・流通・販売といったあらゆる段階で適用可能であり、食中毒の発生を未然に防ぐための強力なツールとなります。

ISO22000の構成要素:HACCPとの統合

ISO22000は、HACCPの考え方を土台として、ISO9001(品質マネジメントシステム)の要素も取り入れた、より包括的な規格です。その構成は、大きく分けて以下の要素から成り立っています。

要素 内容
PDCAサイクル 計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のサイクルを回し、継続的な改善を目指します。
HACCPプラン HACCPの7原則12手順に基づいた具体的な危害管理計画です。
前提条件プログラム(PRP) HACCPプランを効果的に機能させるための、施設・設備・衛生管理などの基本的な管理体制です。
コミュニケーション 内部(従業員間)および外部(サプライヤー、顧客、規制当局など)との情報共有と連携を重視します。

ISO22000では、これらの要素が相互に関連し合い、組織全体で食品安全を管理するシステムを構築することが求められます。HACCPが特定の危害に焦点を当てるのに対し、ISO22000は、組織のシステム全体としての食品安全への取り組みを評価するものです。

ISO22000の取得は、単にHACCPの実施を証明するだけでなく、組織の食品安全マネジメントシステム全体の成熟度と信頼性を示すものとなります。

要求事項の違い:網羅性の比較

HACCPとISO22000の最も大きな違いの一つは、その要求事項の網羅性です。HACCPは、食品の安全性を脅かす可能性のある危害を特定し、それを管理することに特化しています。具体的には、危害分析、CCPの特定、管理基準の設定、監視、是正措置、検証、記録という7原則12手順に沿って、個別の食品や工程ごとのリスク管理を行います。

対して、ISO22000は、HACCPの原則を内包しながら、さらに組織全体のマネジメントシステムとしての側面を強化しています。ISO22000では、以下の点がHACCPよりも重視されます。

  • 組織の食品安全方針と目標の設定 :企業全体として、どのような食品安全を目指すのかを明確にします。
  • リスクベースの思考 :食品安全に関わるリスクを組織全体で捉え、優先順位をつけて管理します。
  • 内部・外部コミュニケーションの強化 :サプライヤー、顧客、規制当局など、関係者との情報共有を促進します。
  • マネジメントレビュー :経営層が定期的に食品安全マネジメントシステムの有効性を評価し、改善策を講じます。
  • 継続的改善 :PDCAサイクルを回し、システム全体のパフォーマンスを向上させます。

このように、ISO22000は、HACCPが個別のリスク管理手法であるのに対し、組織全体で食品安全を継続的に維持・向上させるための「マネジメントシステム」という側面が強い規格と言えます。

適用範囲の違い:個別の工程 vs. 組織全体

HACCPが、特定の食品や製造工程に焦点を当てたリスク管理手法であるのに対し、ISO22000は、組織全体の食品安全マネジメントシステムを対象としています。これは、適用範囲における明確な違いと言えるでしょう。

HACCPを導入する際には、まず対象となる食品や製造工程を特定し、そこで発生しうる危害を洗い出します。そして、その危害を管理するための重要管理点(CCP)を設定し、運用していきます。例えば、あるパン工場であれば、生地の温度管理や焼き工程などがCCPになる可能性があります。

一方、ISO22000を導入する企業は、工場だけでなく、原料の調達から製品の出荷、さらには関連部署(営業、購買、品質保証など)まで、組織全体にわたる食品安全への取り組みをシステムとして構築します。そのため、HACCPの7原則12手順に加えて、組織の構造、責任、権限、コミュニケーション、文書化、内部監査、マネジメントレビューといった、より広範なマネジメントシステムの要求事項を満たす必要があります。

つまり、HACCPは「何をするか」に焦点を当てた手法であるのに対し、ISO22000は「どのように管理するか」という組織的な仕組み全体を対象とする規格なのです。

認証取得の目的とメリット

HACCPの認証取得は、主に「食中毒の予防」と「消費者の信頼獲得」を目的としています。HACCPの考え方を適切に導入・運用することで、食品の安全性を科学的に管理し、食中毒のリスクを低減することができます。これにより、消費者からの信頼を得やすくなり、企業のブランドイメージ向上にもつながります。

一方、ISO22000の認証取得は、HACCPのメリットに加え、よりグローバルな視点でのメリットがあります。ISO22000は国際規格であるため、海外への輸出を考えている企業にとっては、国際的な信頼性を獲得するための重要なステップとなります。また、ISO22000は、食品安全マネジメントシステム全体の有効性を証明するものであるため、組織内部の食品安全管理体制の強化や、サプライヤーとの連携強化にも貢献します。

以下に、それぞれの認証取得による主なメリットをまとめました。

規格 主なメリット
HACCP
  • 食中毒リスクの低減
  • 消費者の信頼獲得
  • 法令遵守(一部義務化)
ISO22000
  • HACCPのメリットに加え
  • 国際的な信頼性の獲得(輸出促進)
  • 食品安全マネジメントシステム全体の強化
  • サプライヤーとの連携強化
  • 企業価値の向上

どちらの規格も、食品安全という共通の目標に向かって、それぞれ異なるアプローチでその実現を支援するものです。

まとめ:HACCPとISO22000の使い分け

HACCPとISO22000のどちらを採用すべきか、あるいは両方を取り入れるべきか、という点は、企業の規模、事業内容、目標とする市場などによって異なります。HACCPは、食品の安全性を確保するための基本的な手法として、食品関連事業者が必ず導入を検討すべきものです。特に、日本国内においては、HACCPに沿った衛生管理の実施が一部義務化されており、その重要性は高まっています。

一方、ISO22000は、HACCPの考え方を包含し、より包括的で国際的な食品安全マネジメントシステムを構築したい企業に適しています。グローバル市場への展開を目指す企業や、サプライヤーとの連携を強化したい企業、組織全体の食品安全管理体制をより一層向上させたい企業にとっては、ISO22000の認証取得が有効な選択肢となります。

両者は排他的なものではなく、HACCPの考え方を基盤として、ISO22000のシステムを構築するという関係性があります。自社の状況や目的に合わせて、最適な規格を選択し、食品安全の確保に役立てていくことが大切です。

食品の安全は、私たちの健康を守るために最も重要なことです。HACCPとISO22000、それぞれの特徴を理解し、より安全な食品を提供するための取り組みを進めていきましょう。

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