「国民健康保険」と「介護保険」、どちらも日本の社会保障制度に欠かせない保険ですが、その目的や対象となるサービスは大きく異なります。この二つの保険にはどのような違いがあるのか、そしてなぜそれぞれの保険が必要とされているのかを、分かりやすく解説します。 国民健康保険と介護保険の違い を理解することは、自分や家族が将来必要とする医療や介護サービスを適切に利用するために非常に重要です。
1.目的と対象者の違い
まず、国民健康保険と介護保険の最も大きな違いは、その「目的」と「対象者」にあります。国民健康保険は、病気やケガをした際の医療費負担を軽減することを主な目的としています。日本に住むほとんどの人が何らかの公的医療保険に加入しており、国民健康保険はそのうちの一つです。一方、介護保険は、高齢や病気、障害などにより、日常生活に支援や介護が必要になった方々を社会全体で支えることを目的としています。その対象は、原則として65歳以上の全ての被保険者、そして40歳から64歳で、特定の病気(特定疾病)により介護が必要になった方々です。
国民健康保険に加入していると、以下のような給付を受けることができます。
- 病気やケガをした際の医療費の自己負担額の軽減 :通常、医療費の7割は保険給付されます。
- 出産育児一時金 :お子さんが生まれた際に支給されます。
- 葬祭費 :加入者が亡くなった際に支給されます。
一方、介護保険が適用されるサービスは、その人がどのくらい介護を必要とするか(要介護度)によって異なります。例えば、要介護1から要介護5までの認定を受けた方は、自宅での生活を支えるための 訪問介護 や 訪問看護 、 デイサービス などのサービスを受けることができます。また、施設に入所する際の費用の一部も給付されます。このように、国民健康保険が「病気になったときの医療」を支えるのに対し、介護保険は「生活を送る上での支援や介護」を支えるという点が、根本的に異なります。
2.保険料の決まり方と徴収方法
次に、保険料の決まり方と徴収方法についても違いがあります。国民健康保険の保険料は、お住まいの市区町村によって異なりますが、一般的には「所得割」「均等割」「平等割」などの合計で計算されます。つまり、加入者の所得が高いほど保険料も高くなる傾向があります。徴収方法は、給与所得者であれば給与から天引きされる場合もありますが、自営業者や年金受給者などは、ご自身で納付書を使って金融機関やコンビニなどで納付することが一般的です。
介護保険料の徴収方法も、国民健康保険と似ていますが、対象者によって異なります。
- 65歳以上の第1号被保険者 :年金からの天引き(特別徴収)が原則ですが、年金額によっては口座振替や納付書での納付(普通徴収)になる場合もあります。
- 40歳から64歳までの第2号被保険者 :国民健康保険や会社の健康保険などの医療保険料に上乗せして徴収されます。
介護保険料は、65歳以上の第1号被保険者の場合は、所得に応じて段階的に定められています。40歳から64歳までの第2号被保険者の場合は、医療保険料の算定方法に準じて決まります。この、所得や年齢、そして加入している医療保険の種類によって保険料の計算方法が変わる点も、国民健康保険との違いと言えます。
3.給付されるサービス内容
保険料を支払うことで、それぞれどのようなサービスが受けられるのか、その内容にも大きな違いがあります。国民健康保険の給付は、主に医療行為に関連するものです。例えば、医師の診察、薬の処方、手術、入院、検査などがこれにあたります。これらのサービスを受ける際に、自己負担割合(一般的に3割)を支払うことで、残りの費用は保険から給付されます。これは、病気やケガの治療に専念できる環境を整えるための制度です。
一方、介護保険が給付するサービスは、より生活に密着したものです。具体的には、以下のようなサービスが挙げられます。
| サービスの種類 | 内容 |
|---|---|
| 居宅サービス | 自宅での入浴、排泄、食事の介助。リハビリテーション。介護用ベッドなどの福祉用具のレンタル。 |
| 施設サービス | 特別養護老人ホームや介護老人保健施設などでの、日常生活の支援や看護、リハビリテーション。 |
| 地域密着型サービス | 小規模多機能型居宅介護など、住み慣れた地域で利用できるサービス。 |
これらのサービスは、利用者の心身の状態や必要性に応じて、ケアプランを作成し、それに沿って提供されます。国民健康保険が「病気の治療」をサポートするのに対し、介護保険は「生活を支える」という役割を担っているのです。
4.加入義務と年齢制限
次に、加入義務と年齢制限についても明確な違いがあります。国民健康保険は、日本国内に住む全ての人が、原則として何らかの公的医療保険に加入することが義務付けられています。つまり、自営業者や無職の方、学生、そして会社勤めをしていて会社の健康保険に加入していない方などが、国民健康保険の加入対象となります。これは、国民皆保険制度を維持し、誰もが安心して医療を受けられるようにするための重要な仕組みです。
介護保険の加入者(被保険者)は、年齢によって「第1号被保険者」と「第2号被保険者」に分けられます。
- 第1号被保険者 :65歳以上の全ての国民。
- 第2号被保険者 :40歳から64歳までの国民で、国民健康保険や会社の健康保険など、公的医療保険に加入している方。
つまり、介護保険への加入は、国民健康保険のように「日本に住んでいるから全員」というわけではなく、年齢が大きく関わってきます。ただし、65歳以上になれば、たとえ医療保険に加入していなくても介護保険の被保険者となります。
5.財源の構成
保険制度を維持していくためには、当然ながら「財源」が必要です。国民健康保険と介護保険では、その財源の構成にも違いが見られます。国民健康保険の主な財源は、加入者が支払う「保険料」と、国や自治体からの「公費(税金)」です。特に、医療費の増大に対応するため、国からの財政支援は大きな割合を占めています。
一方、介護保険の財源は、より多様な要素で構成されています。
- 保険料 :第1号被保険者(65歳以上)からの保険料と、第2号被保険者(40~64歳)からの保険料。
- 公費(税金) :国、都道府県、市区町村からの税金が半分を占めています。
- その他 :過去の剰余金など。
このように、介護保険は国、自治体、そして被保険者(加入者)が、それぞれ一定の負担を分かち合う「社会保険方式」の側面がより強く打ち出されています。これは、介護という社会的な課題に対して、より広範な支援体制を築こうとする意図の表れと言えるでしょう。
6.利用する際の申請手続き
最後に、これらの保険サービスを利用する際の「申請手続き」にも違いがあります。国民健康保険のサービスは、医療機関を受診する際に保険証を提示するだけで、原則としてすぐに利用できます。高額な医療費がかかった場合には、後から「高額療養費制度」の申請をすることで、自己負担額の上限を超えた分が払い戻されます。特別な申請が必要なケースは比較的少ないと言えます。
しかし、介護保険サービスを利用するには、まず「要介護認定」という手続きを申請し、認定を受ける必要があります。この認定は、:
- 申請 :お住まいの市区町村の窓口に申請します。
- 認定調査 :市区町村の職員や委託されたケアマネジャーが、自宅を訪問して心身の状態を調査します。
- 主治医意見書 :かかりつけ医に意見書を提出してもらいます。
- 認定審査会 :調査結果と主治医意見書をもとに、介護の必要度(要支援1~要介護5)を判定します。
この認定結果に基づいて、ケアプランが作成され、初めて介護保険サービスを受けることができるようになります。国民健康保険に比べて、介護保険は申請からサービス開始までに時間がかかる場合があるため、早めの相談が大切です。
国民健康保険と介護保険は、それぞれ異なる目的と対象者、そしてサービス内容を持っています。この違いを理解しておくことは、いざという時に適切な支援を受け、安心して生活を送るために不可欠です。ご自身の状況に合わせて、これらの保険制度を賢く活用していきましょう。