「幻視（げんし）」と「幻覚（げんかく）」、この二つの言葉、似ているようで実は意味が違います。 幻視 と 幻覚 の 違い を理解することは、私たちのこころの働きや、時に起こりうる心身の不調を知る上でとても大切です。
「見る」ことへのフォーカス：幻視とは？
まず、幻視について見ていきましょう。幻視とは、文字通り「視覚（見る）」にまつわる体験で、実際には存在しないものが見える現象を指します。例えば、壁に絵が浮かび上がって見えたり、見慣れた人とは違う顔に見えたり、奇妙な形をしたものが現れたりする、といった具合です。
幻視は、五感のうち「視覚」に限定されるのが特徴です。他の感覚、例えば音や匂い、触覚などは正常に機能しているのに、視覚だけが現実とは異なる体験をするのです。これは、脳の視覚を司る部分で何らかの処理にずれが生じていると考えられています。
幻視が起こる原因は様々ですが、以下のようなものが挙げられます。
- 疲労や睡眠不足
- ストレス
- 特定の薬の副作用
- 病気（例：脳の病気、精神疾患など）
幻視 と 幻覚 の 違い を理解する上で、幻視が「見える」という感覚に特化していることを覚えておきましょう。
五感全体に広がる「感覚」：幻覚とは？
次に、幻覚についてです。幻覚は、幻視よりも広範囲な感覚の体験を伴います。つまり、目に見えるものだけでなく、聞こえる音、感じる匂い、味わい、触感など、五感のどれにでも起こりうるのです。
例えば、「誰もいないのに声が聞こえる（幻聴）」、「奇妙な匂いがする（幻嗅）」、「体に虫が這っているような感覚がある（幻触）」といった体験は、すべて幻覚に含まれます。幻覚は、実際には外部に刺激がないにも関わらず、脳がそれを感じ取ってしまう状態と言えます。
幻覚の主な種類をまとめると、以下のようになります。
| 種類 | 体験内容 |
|---|---|
| 幻視 | 実際にはないものが見える |
| 幻聴 | 実際にはない音が聞こえる |
| 幻嗅 | 実際にはない匂いを感じる |
| 幻味 | 実際にはない味を感じる |
| 幻触 | 実際にはない触覚を感じる |
このように、幻覚は視覚以外の感覚も含まれるため、より生活に影響を与えることも少なくありません。
「現実」との区別：幻視と幻覚の根本的な違い
幻視 と 幻覚 の 違い をより深く理解するために、現実との関係性を見てみましょう。幻視も幻覚も、現実には存在しないものを体験する点では共通していますが、その「現実味」の感じ方が異なる場合があります。
一般的に、幻視は「見えている」という事実が強く、それ故に現実のように感じやすいことがあります。例えば、壁に現れた絵が非常に鮮明で、そこに「ある」と信じてしまうようなケースです。これは、視覚情報が脳にとって非常に強力な情報源であるためと考えられます。
一方、幻覚は、その体験が現実離れしていると感じられたり、他の感覚との整合性が取れないために、本人が「これはおかしい」と感じやすい場合もあります。しかし、病的な状態では、幻覚であっても現実のように強く感じられることもあります。
大切なのは、これらの体験が「現実にそうではない」と区別できるかどうかです。もし、見えたり聞こえたりすることが現実とかけ離れていると感じたり、日常生活に支障が出ている場合は、専門家への相談が不可欠です。
原因の多様性：なぜ起こるのか？
幻視と幻覚が起こる原因は、そのどちらにも共通する部分が多くあります。脳の機能に一時的、あるいは継続的な変化が生じることで、感覚情報が誤って処理されてしまうことが背景にあります。
考えられる原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 生理的な要因： 極度の疲労、睡眠不足、強いストレス、高熱など、一時的に脳の働きが不安定になることで起こることがあります。
- 薬物やアルコールの影響： 特定の薬剤の副作用や、アルコールの摂取、離脱症状などによって引き起こされることがあります。
- 精神疾患： 統合失調症やせん妄、うつ病などの精神疾患の症状として現れることがあります。
- 神経疾患： 脳腫瘍、てんかん、パーキンソン病などの神経系の病気によっても、幻視や幻覚が起こり得ます。
- 感覚器の異常： 例えば、失明に近い状態になった人が、見えないはずのものが見えるという現象（シャルル・ボネ症候群）なども、幻視の一種として知られています。
これらの原因を特定し、適切な対処を行うことが、問題の解決につながります。
体験する際の状況：どんな時に起こりやすい？
幻視や幻覚は、特定の状況下で起こりやすいことがあります。これらの状況を把握しておくことで、自身や周りの人の異変に気づきやすくなるかもしれません。
- 寝入りばなや目覚め際： この時間帯は、脳が覚醒と睡眠の間を行き来しているため、一時的に非現実的な体験をしやすいことがあります。これは「入眠時幻覚」や「出眠時幻覚」と呼ばれます。
- 暗闇や単調な環境： 外部からの刺激が少ない環境では、脳が自身の内部の活動に過剰に反応し、幻覚のような体験をすることがあります。
- 孤立した状況： 社会的な孤立や、誰とも関わりのない状況が続くと、精神的な負担から幻覚が生じることがあります。
- 薬物やアルコールの影響下： 摂取中や、摂取を止めた直後の離脱症状として、幻覚が出現することがあります。
これらの状況は、必ずしも病気を示唆するものではありませんが、頻繁に起こる場合や、日常生活に支障が出る場合は注意が必要です。
「病気」との関連性：どんな病気が考えられる？
幻視や幻覚が頻繁に起こったり、日常生活に大きな影響を与えたりする場合は、何らかの病気が原因となっている可能性があります。正確な診断と治療のためには、医師の診察が不可欠です。
以下に、幻視や幻覚と関連が深いとされる病気をいくつか挙げます。
- 統合失調症： 幻聴が代表的な症状ですが、幻視も起こり得ます。
- せん妄： 急性の意識障害で、原因は感染症、脱水、薬物などが考えられます。
- うつ病（重症の場合）： 希死念慮とともに、幻覚や妄想を伴うことがあります。
- アルコール依存症： 断酒による離脱症状で、幻覚（特に幻視）が現れることがあります。
- 脳腫瘍や脳血管障害： 脳の特定の部分が損傷されることで、幻視や幻覚が生じることがあります。
- てんかん： 発作の一部として、幻覚を経験することがあります。
これらの病気かどうかは、自己判断せず、必ず専門医に相談するようにしましょう。
「治療」について：どうすれば良い？
幻視や幻覚の治療は、その原因によって大きく異なります。まずは、どのような状況で、どのような体験をしているのかを詳しく医師に伝えることが重要です。
- 原因疾患の治療： もし、統合失調症や脳腫瘍など、特定の病気が原因であれば、その病気に対する治療（薬物療法、手術など）が中心となります。
- 薬物療法： 症状を抑えるために、抗精神病薬などが処方されることがあります。
- 環境調整： 安心できる静かな環境を整えたり、ストレスを軽減することも大切です。
- 心理療法： 本人が体験を受け入れ、対処法を学ぶためのカウンセリングや心理療法が行われることもあります。
幻視 と 幻覚 の 違い を理解した上で、ご自身の体験を冷静に把握し、必要であれば専門家の助けを借りることが、回復への第一歩となります。
幻視 と 幻覚 の 違い は、見えるか、それとも他の感覚も含むか、という点にあります。どちらも、私たちのこころや脳の働きが一時的に、あるいは継続的に影響を受けているサインかもしれません。もし、ご自身や周りの人に気になる症状がある場合は、一人で抱え込まず、勇気を出して相談してみてください。