「BLS」と「ALS」、この二つの言葉、医療や救命救急の現場でよく耳にしますが、一体どんな違いがあるのでしょうか?実は、 BLSとALSの違い は、対応できる症状の範囲や、そこで行われる処置のレベルにあります。この二つの知識をしっかり理解することで、いざという時に、より適切な対応ができるようになるのです。
BLSとALS、基本を理解しよう
まずは、BLS(Basic Life Support:一次救命処置)について見ていきましょう。BLSは、心停止や呼吸停止など、命にかかわる緊急事態が発生した際に、医療従事者ではない一般の方でも行える、基本的な救命処置のことです。具体的には、意識・呼吸の確認、胸骨圧迫(心臓マッサージ)、人工呼吸、AED(自動体外式除細動器)の使用などが含まれます。これは、救急隊が到着するまでの間、または医療機関に搬送されるまでの間に行われる、いわば「命をつなぐための最初のステップ」と言えます。 BLSは、専門的な知識や器具がなくても、誰でも学ぶことができ、実施できることが重要 です。
一方、ALS(Advanced Life Support:二次救命処置)は、BLSよりも高度な医療処置を指します。これは、主に医師や看護師などの医療従事者が行うもので、BLSで実施される処置に加えて、以下のような処置が含まれます。
- 薬剤の投与(アドレナリンなど)
- 静脈路確保(点滴)
- 気道確保(気管挿管など)
- 電気ショック(除細動)の実施
つまり、BLSが「誰でもできる、命をつなぐための処置」であるのに対し、ALSは「医療従事者が行う、より専門的で高度な処置」ということになります。この二つの連携が、救命率を大きく左右するのです。
BLSとALSの具体的な処置内容の違い
BLSとALSの最も大きな違いは、そこで行われる具体的な処置の内容です。BLSでは、まず傷病者の状態を評価し、呼吸や心臓が止まっていると判断した場合、ただちに胸骨圧迫を開始します。胸骨圧迫は、成人の場合、1分間に100~120回の速さで、約5cmの深さで行うことが推奨されています。人工呼吸は、胸骨圧迫30回に対し2回行うのが基本です。AEDが近くにあれば、電源を入れて音声指示に従い、除細動が必要な場合は電気ショックを行います。
これに対してALSでは、BLSの処置に加えて、さらに専門的な処置が行われます。例えば、気管挿管は、傷病者の気道にチューブを挿入して、呼吸を確保する処置です。これにより、より確実な人工呼吸や、換気の補助が可能になります。また、静脈路確保は、点滴で薬剤を投与するために必要です。ALSでは、心電図モニターで不整脈を確認し、必要に応じて薬剤を投与したり、電気ショックを行ったりします。
これらの処置を、どれくらいの頻度で行うか、また、どのような基準で行うかについても、BLSとALSでは違いがあります。例えば、電気ショックの判断基準は、ALSの専門家によって下されます。
| 処置内容 | BLS | ALS |
|---|---|---|
| 胸骨圧迫 | 実施 | 実施(BLSの処置に追加) |
| 人工呼吸 | 実施 | 実施(気道確保後により確実に行う) |
| AED | 使用(一般市民も可) | 使用(医療従事者が判断) |
| 気道確保 | 簡易的な方法 | 気管挿管など専門的な方法 |
| 薬剤投与 | なし | 実施 |
対象となる傷病者の状態
BLSとALSは、対応する傷病者の状態にも違いがあります。BLSは、心肺停止状態、つまり呼吸も心臓の動きも停止している、あるいはそれに近い状態の傷病者に対して行われます。この段階で速やかにBLSを開始することで、脳への酸素供給を維持し、救命の可能性を高めます。
ALSは、BLSで心肺蘇生を行った後、または救急隊や医療機関に引き継がれた後に行われることが多いです。ALSでは、心停止の原因を特定し、それに応じた治療を行います。例えば、心筋梗塞や脳卒中など、原因が特定できる場合には、それに対する治療が優先されます。
また、BLSは、事故や急病などで突然心停止になった場合だけでなく、溺水や窒息など、呼吸障害が原因で心停止に至った場合にも有効です。
- BLSの対象:
- 突然の心停止
- 呼吸停止
- 意識消失
- ALSの対象:
- BLSで蘇生が不十分な場合
- 原因不明の心肺停止
- 重篤な病状(心筋梗塞、脳卒中など)
実施する人の資格と訓練
BLSとALSの最も明確な違いの一つは、それを実施できる人の資格と訓練レベルです。BLSは、特別な資格を持たない一般市民でも、講習を受けることで習得し、実施できるようになります。多くの自治体や企業で、一般向けのBLS講習が開催されています。
一方、ALSは、医師、看護師、救急救命士といった、専門的な医療資格を持ち、高度な訓練を受けた医療従事者のみが行うことができます。ALSの訓練は、より専門的な知識と技術を習得するために、長期間にわたる厳しいものです。
例えば、BLS講習では、胸骨圧迫や人工呼吸の基本的な手技、AEDの使い方などを学びます。
- 心肺蘇生法(CPR)の基本
- AEDの操作方法
- 異物除去(窒息時の対応)
これに対し、ALSのトレーニングでは、心電図の判読、様々な薬剤の知識、気管挿管の技術などを学びます。
救急隊の役割との関係
BLSとALSは、救急隊の活動とも密接に関係しています。救急隊は、現場に到着してから医療機関に搬送するまでの間、BLSとALSの橋渡し役を担います。
救急隊が現場に到着した際、一般市民がBLSを実施していれば、傷病者の状態はBLS実施前よりも良好である可能性が高く、救命の可能性も高まります。救急隊は、そのBLSの処置を引き継ぎ、さらに高度なALSの処置を行います。
救急隊は、以下のようなALSの処置の一部、または全てを実施する権限と訓練を受けています。
- 静脈路確保
- 気管挿管
- 薬剤投与(一部)
- 除細動
つまり、救急隊は、BLSの技術をさらに発展させた、高度な救命処置を行うプロフェッショナルなのです。
医療機関での役割
救急隊によって医療機関に搬送された傷病者に対しては、医療機関の医師や看護師がALSを担当します。医療機関では、より高度な検査機器や設備が整っているため、ALSの処置もさらに多岐にわたります。
医療機関でのALSの役割は、単に心肺蘇生を継続するだけでなく、心停止の原因となった病気の診断と治療に重点を置きます。例えば、心臓カテーテル検査で冠動脈の詰まりを発見し、バルーンで拡張するなどの専門的な治療が行われます。
また、ALSの訓練を受けた医療従事者は、チームとして連携し、迅速かつ的確な処置を行います。
- 患者の状態の継続的な評価
- 原因特定のための詳細な検査
- 原因疾患に対する根本的な治療
このように、医療機関では、ALSによって、より集中的で包括的な救命処置が行われるのです。
まとめ:命をつなぐための連携
BLSとALSの違いを理解することは、救命救急の現場で、それぞれの役割がどれほど重要であるかを知ることにつながります。BLSは、誰にでもできる、命をつなぐための最初の「希望の光」です。そして、ALSは、その希望をさらに確実なものにするための、高度な「専門技術」と言えるでしょう。
BLSとALSは、それぞれ独立したものではなく、緊密に連携することで、一人でも多くの命を救うことができます。一般市民ができるBLSの普及と、医療従事者による高度なALSの提供、これらが一体となって、より安全で安心できる社会が築かれていくのです。