交通事故には、大きく分けて「物損事故(ぶっそんじこ)」と「人身事故(じんしんじこ)」の2種類があります。この二つの違いを理解することは、万が一の事故の際に正しい対応をするためにとても大切です。今回は、 物損事故と人身事故の違い について、わかりやすく解説していきます。
事故の核心:損害の対象が鍵
「物損事故」は、文字通り、車や建物などの「物」に損害が発生した事故のことです。例えば、追突して前の車をへこませてしまったり、ガードレールにぶつかってしまったりといったケースがこれにあたります。この場合、損害は主に修理費用として金銭で解決されることが一般的です。
一方、「人身事故」は、事故によって「人」が怪我をしたり、亡くなったりする、つまり人の身体に損害が発生した事故を指します。かすり傷のような軽い怪我から、入院が必要な大怪我、さらには命に関わるような重傷、死亡事故まで、人の命や健康に関わる事故すべてが人身事故となります。 人身事故の対応は、物損事故よりもはるかに複雑で、当事者双方の精神的な負担も大きくなります。
物損事故と人身事故の大きな違いは、損害の対象が「物」なのか「人」なのかという点にあります。しかし、見た目は物損事故でも、後から怪我が見つかることで人身事故に切り替わるケースもあるため、注意が必要です。
| 事故の種類 | 損害の対象 | 主な対応 |
|---|---|---|
| 物損事故 | 車、建物などの「物」 | 修理費用の支払い |
| 人身事故 | 人(怪我、死亡) | 治療費、慰謝料、休業損害などの支払い |
事故発生時の初動対応の違い
事故が起きたとき、まず行うべきことは、怪我人がいないか確認することです。もし、怪我人がいれば、それがたとえ軽傷に見えても、すぐに救急車を呼ぶなどの対応が必要です。この「救護措置」を最優先で行うことが、人身事故における最重要事項となります。
警察への連絡も、どちらの事故でも必ず行う必要があります。しかし、人身事故の場合は、警察に「事故による怪我人がいる」ことを明確に伝えることが重要です。これにより、警察は事故の状況をより詳しく調査し、必要な手続きを進めてくれます。 事故証明書 を取る際にも、人身事故として扱われるか物損事故として扱われるかで、記載内容や手続きが変わってきます。
物損事故の場合は、双方の連絡先を交換し、加入している保険会社に連絡することが主な対応となります。しかし、人身事故の場合は、怪我の程度によっては、相手方との示談交渉が長引くこともあります。そのため、弁護士に相談することも視野に入れる必要があるでしょう。
- 怪我人の有無を確認し、必要であれば救急車を呼ぶ。
- 警察に連絡し、事故の状況を伝える。
- 相手方と連絡先を交換する。
- 保険会社に連絡する。
保険金の支払いと補償内容の違い
交通事故の保険金は、事故の種類によって補償される範囲や金額が大きく異なります。物損事故では、主に自動車保険の「車両保険」や「対物賠償保険」が適用され、壊れた車の修理費用などが支払われます。
一方、人身事故では、自動車保険の「人身傷害保険」や「搭乗者傷害保険」、そして相手方の「対人賠償保険」などが関わってきます。これらは、怪我をした際の治療費はもちろんのこと、怪我によって働けなくなった場合の休業損害、精神的な苦痛に対する慰謝料など、より広範囲な損害を補償します。 人身事故の補償は、被害者の回復をサポートするための多岐にわたる項目が含まれています。
- 物損事故:修理費用、物の交換費用など
- 人身事故:治療費、通院交通費、入院費、休業損害、慰謝料、後遺障害に関する補償など
事故証明書における記載の違い
事故証明書は、交通事故の事実を証明する書類であり、保険金の請求や示談交渉などで必要となります。この事故証明書は、警察が作成する「交通事故証明書」のことを指します。
物損事故の場合、交通事故証明書には「物件事故」と記載されます。これは、事故の対象が物だけであったことを示しています。一方、人身事故の場合は、「人身事故」と記載され、さらに怪我の程度(死亡、重傷、軽傷など)や、怪我をした人の氏名、年齢なども記録されることがあります。 この記載の違いは、その後の手続きや補償内容に大きな影響を与えます。
もし、当初は物損事故として処理してもらった後で、実は怪我をしていたことが判明した場合、警察に届け出て、人身事故への切り替え手続きを行う必要があります。この切り替えを怠ると、適切な補償が受けられない可能性があります。
過失割合の判断基準の違い
交通事故では、事故の責任が当事者双方にどれだけあるかを示す「過失割合」が決められます。この過失割合は、事故の状況や交通ルール違反などを考慮して判断されます。
物損事故の場合、過失割合は主に「どちらの運転に不注意があったか」という点に焦点が当てられます。例えば、前方不注意による追突事故や、信号無視による衝突などが典型例です。 過失割合の算定は、その後の損害賠償額に直接影響するため、慎重な判断が求められます。
一方、人身事故の場合、過失割合の判断はより複雑になります。なぜなら、被害者の怪我の程度や、事故発生前の状況、さらに被害者側の交通ルール違反なども考慮されるからです。例えば、歩行者が信号無視をして車にはねられた場合、車側にも前方不注意などの過失があったとしても、歩行者側の過失割合も大きくなることがあります。
過失割合は、保険会社同士の交渉で決まることが多いですが、合意に至らない場合は、裁判所に判断を委ねることもあります。
| 判断基準 | 物損事故 | 人身事故 |
|---|---|---|
| 主な焦点 | 運転者の不注意、交通ルール違反 | 運転者の不注意、交通ルール違反、被害者の怪我の程度、被害者側の状況 |
| 複雑さ | 比較的シンプル | より複雑で多岐にわたる |
損害賠償請求における違い
事故で発生した損害を相手方に請求する際も、物損事故と人身事故ではその内容が大きく異なります。物損事故では、主に車の修理費用や、代車費用などが請求の対象となります。
人身事故の場合は、前述したように、治療費、通院費、入院費といった直接的な医療費に加え、怪我によって働けなくなった期間の「休業損害」や、精神的な苦痛に対する「慰謝料」なども請求の対象となります。さらに、後遺障害が残ってしまった場合は、それに対する逸失利益(将来得られたはずの収入)なども含めて請求することになります。 損害賠償請求においては、人身事故の方が請求できる項目の種類が多く、金額も高額になる傾向があります。
これらの損害賠償額の算定は、専門的な知識が必要となる場合が多いため、弁護士などの専門家に相談することが推奨されます。
さて、ここまで物損事故と人身事故の違いについて詳しく見てきました。どちらの事故であっても、まずは落ち着いて、二次被害を防ぐための安全確保と、警察への連絡を最優先で行うことが大切です。そして、ご自身の保険会社にも速やかに連絡し、適切な対応を進めていきましょう。