「腸閉塞」と「イレウス」、どちらも腸が詰まってしまう病気ですが、一体何が違うのでしょうか? 実は、この二つの言葉は、ほとんど同じ意味で使われることが多いのです。しかし、厳密には少しニュアンスが異なります。この違いを理解することで、病気についてより深く、そして正確に知ることができます。
「腸閉塞」と「イレウス」の呼び方の違い
「腸閉塞」という言葉は、文字通り「腸が塞がってしまうこと」を指す、比較的わかりやすい表現です。一方、「イレウス」は、ギリシャ語で「腸のねじれ」や「腸の閉塞」を意味する言葉が語源となっています。医療現場では、どちらの言葉も使われますが、「イレウス」の方がより医学的な響きを持っています。
つまり、 「腸閉塞」は状態そのものを指す言葉であり、「イレウス」はその状態を指す医学用語 と言えます。日常会話では「腸閉塞」が使われることも多いですが、診断書や専門的な説明では「イレウス」という言葉が用いられることが一般的です。
- 腸閉塞:腸が物理的に塞がってしまい、内容物が流れなくなっている状態。
- イレウス:腸閉塞と同義で使われる医学用語。
原因による分類:何が腸を塞ぐのか?
腸閉塞(イレウス)を引き起こす原因は様々ですが、大きく分けて「閉塞性イレウス」と「機能的イレウス」の二つに分類されます。この分類が、病気の理解を深める上で重要になります。
閉塞性イレウスは、文字通り、腸の「内側」または「外側」から物理的に腸が圧迫されたり、塞がれたりすることで起こります。例えば、:
- 手術後の癒着
- 腫瘍
- ヘルニア
- 腸重積
一方、機能的イレウスは、腸の動きそのものに問題が起きて、内容物がうまく運ばれなくなる状態を指します。これはさらに、腸の動きが活発になりすぎてしまう「虚血性イレウス」と、逆に腸の動きが弱くなりすぎてしまう「麻痺性イレウス」に分けられます。
原因によって治療法も変わってくるため、医師はまず「閉塞性」なのか「機能的」なのか、そしてその中でもどのような原因が考えられるのかを慎重に診断します。
| 分類 | 主な原因 |
|---|---|
| 閉塞性イレウス | 癒着、腫瘍、ヘルニアなど |
| 機能的イレウス | 腸の動きの異常(虚血性、麻痺性) |
症状の特徴:どんな痛みや不調が起こる?
腸閉塞(イレウス)の症状は、原因や閉塞している場所によって多少異なりますが、一般的に以下のようなものが挙げられます。これらを把握しておくことは、早期発見につながるため、 症状を正しく理解することが何よりも大切 です。
最も特徴的な症状は、激しい腹痛です。この痛みは、腸が内容物を送り出そうとして過剰に動くために起こります。痛みの種類は、
- キリキリとした痛み
- 波のように強くなる痛み
などが特徴的です。
さらに、腸に内容物が溜まることで、
- 吐き気や嘔吐
- お腹の張り(膨満感)
といった症状も現れます。嘔吐物には、胃液だけでなく、腸液や場合によっては便のような臭いが混じることもあります。
また、腸閉塞が進行すると、水分や電解質のバランスが崩れ、脱水症状になったり、発熱を伴ったりすることもあります。便が出にくくなる、あるいは全く出なくなることも、重要なサインです。
診断方法:どうやって病気を見つけるの?
医師が腸閉塞(イレウス)の診断を下す際には、いくつかの方法を組み合わせて行います。患者さんの状態を正確に把握し、適切な治療につなげるために、 診断プロセスを理解しておくことは安心につながります 。
まず、問診では、いつから、どのような症状があるのか、過去に手術歴はあるかなどを詳しく聞かれます。次に、お腹を触診して、痛みの場所や、お腹の張りの程度などを確認します。
画像検査は、診断において非常に重要な役割を果たします。具体的には、
- レントゲン検査:腸にガスが溜まっている様子や、腸が拡張している様子を捉えることができます。
- CT検査:腸の閉塞している箇所や、その原因(腫瘍など)をより詳しく特定することができます。
血液検査では、炎症の程度や脱水症状の有無などを調べます。これらの検査結果を総合的に判断し、診断が確定されます。
| 検査方法 | 主な目的 |
|---|---|
| 問診・触診 | 症状の把握、腹部の状態確認 |
| レントゲン検査 | 腸のガス貯留、拡張の確認 |
| CT検査 | 閉塞部位、原因の特定 |
| 血液検査 | 炎症、脱水の評価 |
治療法:どのようにして腸の詰まりを解消する?
腸閉塞(イレウス)の治療は、その原因や重症度によって異なります。早期発見・早期治療が重要であり、 適切な治療を受けることが回復への近道 となります。
一般的に、まずは絶食、点滴による水分・電解質の補給、そして鼻から胃や腸まで管を通して内容物を吸引する「減圧療法」が行われます。これは、腸への負担を減らし、回復を促すための基本的な治療です。
閉塞性イレウスで、原因が明らかであり、手術で取り除けるような場合(例えば、癒着や腫瘍)、外科手術が検討されます。手術の方法は、原因によって様々です。
機能的イレウス、特に麻痺性イレウスの場合は、原因となっている疾患(例えば、腹部の手術後など)の改善や、腸の動きを活発にする薬の使用などで回復を待ちます。虚血性イレウスの場合は、緊急手術が必要となることもあります。
患者さんの状態を注意深く観察しながら、最も効果的で安全な治療法が選択されます。
予防策:再発を防ぐためにできること
腸閉塞(イレウス)の経験がある方や、リスクがある方は、再発を防ぐための対策を知っておくことが大切です。 日頃からの健康管理が、将来の病気のリスクを減らす ことにつながります。
特に、手術後の癒着が原因で腸閉塞を起こしたことがある方は、腹部の手術を繰り返すことで、さらに癒着が進む可能性があります。そのため、不要な手術は避けることが望ましいでしょう。
また、便秘を放置することも、腸に負担をかける原因となり得ます。バランスの取れた食事、十分な水分摂取、適度な運動などを心がけ、規則正しい排便習慣を維持することが大切です。
- 腹部の手術歴がある場合は、医師の指示に従う。
- バランスの取れた食事を心がける。
- 十分な水分を摂取する。
- 適度な運動で腸の動きを活発にする。
- 便秘を放置しない。
これらの基本的な生活習慣を見直すことが、腸の健康を守る上で非常に重要です。
「腸閉塞」と「イレウス」という言葉は、ほとんど同じ意味で使われますが、その背景には様々な原因や症状、そして治療法があります。この違いを理解し、ご自身の体のサインに注意を払うことで、もしもの時に適切に対処できるようになるはずです。