ADHD(注意欠如・多動症)とアスペルガー症候群は、どちらも発達障害の一種ですが、その特性や現れ方には違いがあります。これらの違いを理解することは、本人だけでなく、周囲の人々が適切なサポートを提供するために非常に重要です。本記事では、ADHDとアスペルガー症候群の主な違いについて、わかりやすく解説していきます。
ADHDとアスペルガー症候群の「困りごと」の根っこにある違い
ADHDとアスペルガー症候群の根本的な違いは、その「困りごと」がどこから来ているかという点にあります。ADHDの主な特徴は、「不注意」「多動性」「衝動性」といった、行動や注意のコントロールに関する困難さです。例えば、授業中にじっとしていられなかったり、考えずに行動してしまったりすることが挙げられます。一方、アスペルガー症候群(現在はASD:自閉スペクトラム症の一部として捉えられることが多いですが、ここでは便宜上アスペルガー症候群として解説します)は、「対人関係やコミュニケーションの困難さ」「限定された興味やこだわり」が中心となります。他人の気持ちを察するのが苦手だったり、特定のことについて異常に詳しいなどの特徴が見られます。 これらの違いを把握することが、それぞれの特性に合わせた理解や支援の第一歩となります。
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ADHDの特性
- 集中力が続かない(不注意)
- じっとしていられない、落ち着きがない(多動性)
- 思いつきで行動してしまう(衝動性)
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アスペルガー症候群の特性
- 相手の気持ちを察するのが苦手
- 言葉の裏を読み取るのが難しい
- 特定のことへの強いこだわり
- ルーティンを重んじる
コミュニケーションの取り方の違い
ADHDとアスペルガー症候群では、コミュニケーションの取り方にも顕著な違いが見られます。ADHDの方は、多動性や衝動性から、会話中に相手の話を遮ってしまったり、話題が次々と飛んだりすることがあります。また、衝動的に発言してしまうために、思わず相手を傷つけるようなことを言ってしまい、人間関係で悩むことも少なくありません。
対して、アスペルガー症候群の方は、言葉通りの意味でしか受け取れないことが多いため、皮肉や冗談、比喩などが理解しにくい傾向があります。そのため、相手が言いたいことを正確に伝えられずに誤解が生じたり、会話のキャッチボールがうまくいかなかったりすることがあります。また、相手の表情や声のトーンから感情を読み取るのが苦手なため、相手が怒っているのか、悲しんでいるのかなどを理解するのに時間がかかることもあります。
| ADHD | アスペルガー症候群 |
|---|---|
| 会話中に遮ることがある | 言葉の裏が読みにくい |
| 話題が飛びやすい | 表情や声のトーンからの感情理解が難しい |
| 衝動的な発言 | 直接的な表現を好む |
興味・関心の持ち方の違い
興味・関心の持ち方にも、ADHDとアスペルガー症候群で違いがあります。ADHDの方は、興味を持ったことには一時的に深く集中できることもありますが、その興味は移ろいやすく、飽きやすい傾向があります。次々と新しいことに目移りしてしまうため、一つのことを最後までやり遂げるのが難しい場合があります。
一方、アスペルガー症候群の方は、特定の分野に非常に強い興味やこだわりを持つことが多いです。その興味は非常に深く、専門家顔負けの知識を持つことも珍しくありません。その分野のこととなると、他のことには目もくれずに没頭し、長時間話し続けることもあります。この強いこだわりが、社会生活を送る上で、時には困難さをもたらすこともあります。
対人関係における困難さの違い
対人関係における困難さの現れ方も、ADHDとアスペルガー症候群では異なります。ADHDの方は、多動性や衝動性から、相手との距離感を掴むのが難しかったり、場の空気を読まずに発言してしまったりすることが原因で、人間関係がうまくいかないことがあります。また、衝動的な行動が相手に迷惑をかけてしまい、関係が悪化することもあります。
アスペルガー症候群の方は、前述したコミュニケーションの困難さや、相手の気持ちを推測するのが苦手なことから、他者との関係構築に苦労することが多いです。社交辞令や暗黙のルールを理解するのが難しく、周囲から「変わっている」と思われたり、孤立したりすることがあります。しかし、一度信頼関係が築ければ、非常に誠実で忠実な友人となることも少なくありません。
以下に、対人関係における困難さの具体例をまとめました。
- ADHD:
- 相手の話を最後まで聞かずに割り込む
- 衝動的な発言で相手を不快にさせる
- 落ち着きがなく、会話に集中できない
- アスペルガー症候群:
- 相手の意図を正確に理解できず、誤解を生む
- 場の空気を読めず、不適切な発言をする
- 共感の示し方が分からず、冷たい印象を与える
感覚過敏・鈍麻の違い
ADHDとアスペルガー症候群では、感覚の過敏さや鈍麻の現れ方にも違いが見られることがあります。ADHDの場合、感覚過敏や鈍麻は必ずしも中心的な特性ではありませんが、一部の方に見られることがあります。例えば、特定の音や光に過剰に反応したり、逆に痛みを感じにくかったりすることがあります。
一方、アスペルガー症候群(ASD)では、感覚過敏や鈍麻は比較的よく見られる特性です。例えば、特定の服の素材がチクチクして耐えられなかったり、工事の騒音に極度に敏感だったりする「感覚過敏」があります。逆に、痛みや暑さ寒さなどを感じにくく、怪我をしても気づきにくい「感覚鈍麻」を持つ人もいます。これらの感覚の違いは、日常生活に大きな影響を与えることがあります。
併存について:ADHDとアスペルガー症候群、両方の特性を持つことも
ここで重要なのは、ADHDとアスペルガー症候群は、必ずしもどちらか一方だけを持つとは限らないということです。実際には、両方の特性を併せ持つ「併存」しているケースも少なくありません。例えば、ADHDの不注意さや多動性に加えて、アスペルガー症候群のコミュニケーションの困難さやこだわりを持つ人もいます。このように、複数の特性を併せ持つ場合、その困難さも複雑になることがあります。
併存している場合、以下のような特徴が見られることがあります。
- ADHDの衝動性から、対人関係でトラブルを起こしやすい
- アスペルガー症候群のこだわりが、ADHDの不注意さからさらに強固になる
- 感覚過敏と多動性が重なり、刺激に非常に敏感で落ち着きがない
このように、併存している場合は、それぞれの特性が互いに影響し合い、より複雑な支援が必要となることもあります。
まとめ:違いを理解し、個々の特性に合わせたサポートを
ADHDとアスペルガー症候群は、それぞれ異なる特性を持っていますが、どちらもその特性ゆえに日常生活で様々な困難に直面することがあります。これらの違いを理解することは、本人を責めるのではなく、その特性を把握し、より良いサポートや環境調整を行うための土台となります。もし、ご自身やお子さん、身近な人に気になる点がある場合は、専門機関に相談し、正確な診断と適切なアドバイスを受けることが大切です。