「GFR」と「eGFR」、どちらも腎臓の働きを示す大切な指標ですが、実は微妙な違いがあります。この二つの違いを理解することは、ご自身の健康状態を把握する上で非常に重要です。この記事では、GFRとeGFRの違いを分かりやすく解説し、なぜそれが大切なのかを掘り下げていきます。
GFRとeGFRの基本:何が違うの?
GFRとは、Glomerular Filtration Rateの略で、日本語では「糸球体(しきゅうたい)濾過量(ろかよう)」と呼ばれます。これは、腎臓の機能、特に老廃物をろ過する能力を直接的に示す数値です。GFRは、健康な腎臓であればある程度の量を維持できますが、病気や加齢によって低下することがあります。 GFRの数値を知ることは、腎臓病の早期発見や進行の評価に不可欠です。
一方、eGFRはEstimated Glomerular Filtration Rateの略で、「推算糸球体濾過量」と訳されます。これは、GFRを「推定」した値です。なぜ「推定」なのかというと、GFRを正確に測定するには、特殊な造影剤などを使った専門的な検査が必要で、日常的な健康診断などでは行いにくいからです。そのため、血液検査で測定できるクレアチニンという物質の濃度、年齢、性別といった情報をもとに、数式を使ってGFRを「推測」したものがeGFRなのです。
つまり、GFRが「実際のろ過量」であるのに対し、eGFRは「推定されたろ過量」と言えます。日常的な健康チェックでよく使われるのは、手軽に測定できるeGFRの方です。eGFRの値を見れば、おおよその腎臓の働き具合が分かり、必要に応じて詳しい検査(GFR測定)に進むかどうかの判断材料になります。
- GFR:実際の腎臓のろ過量
- eGFR:血液検査などから計算された推定ろ過量
GFRの測定方法とその意義
GFRを正確に知るための方法
GFRを正確に測定するには、いくつかの方法があります。最も一般的なのは、イヌリンクリアランス法と呼ばれる方法です。これは、体内で代謝されないイヌリンという物質を点滴で投与し、一定時間内に尿中にどれだけ排出されたかを測定することで、腎臓のろ過能力を算出します。この方法で得られた値が、厳密な意味でのGFRとなります。
また、造影剤を使った放射性同位体(ラジオアイソトープ)を用いた方法もあります。これも非常に正確なGFRを測定できますが、特殊な設備や技術が必要となるため、一般的な健康診断では行われません。これらは、腎臓病の診断や治療方針の決定など、より専門的な医療の場面で活用されます。
GFRを正確に知ることの意義は大きいですが、日常的な健康管理においては、その測定が常に可能というわけではありません。そのため、より簡便に腎臓の機能を把握できるeGFRが重宝されるのです。
| 測定方法 | 特徴 |
|---|---|
| イヌリンクリアランス法 | 正確だが時間と手間がかかる |
| 放射性同位体法 | 非常に正確だが専門設備が必要 |
eGFRからわかること:計算の仕組み
eGFRはどのように計算される?
eGFRは、先ほども触れたように、血液検査で測定できるクレアチニンという物質の濃度、年齢、性別といった情報から計算されます。クレアチニンは、筋肉を動かす際にできる老廃物で、腎臓でろ過されて尿として体外に排出されます。腎臓の機能が低下すると、クレアチニンをうまく排出できなくなり、血液中のクレアチニン濃度が高くなります。
eGFRを計算するための数式はいくつかありますが、一般的に使われているのは「CKD-EPI式」や「修正MDRD式」などです。これらの数式は、多くの人を対象にした研究に基づいて作られており、個人差を考慮しつつ、おおよそのGFRを推定することができます。
例えば、CKD-EPI式では、以下のような要素が考慮されます。
- 血清クレアチニン値
- 年齢
- 性別
- 人種(ただし、日本国内では人種による補正は通常行われません)
GFRとeGFR:数値の意味するところ
数値が示す健康状態
GFRもeGFRも、数値が低いほど腎臓の機能が低下していることを示します。一般的に、健康な人のeGFRは100 mL/min/1.73m²以上とされており、この数値が高いほど腎臓は元気に働いていると言えます。しかし、加齢とともに腎臓の機能は自然に低下するため、年齢が高くなるにつれてeGFRが多少低くなることは珍しくありません。
国際的な基準では、eGFRの値によって腎臓病の進行度が以下のように分類されています。
- ステージ1: eGFR 90以上(ただし、尿の異常など他の腎臓病のサインがある場合)
- ステージ2: eGFR 60~89
- ステージ3a: eGFR 45~59
- ステージ3b: eGFR 30~44
- ステージ4: eGFR 15~29
- ステージ5: eGFR 15未満(末期腎不全)
ただし、eGFRの値だけで腎臓病と断定するわけではありません。尿検査でタンパク尿(尿にタンパクが出ること)や血尿(尿に血が混じること)がないか、血圧は高くないかなど、他の検査結果と合わせて総合的に判断されます。
GFRとeGFRの使い分け:いつどちらが使われる?
日常的な健康チェックと専門的な診断
日常的な健康診断や、かかりつけ医での診察で「腎臓の機能が落ちていますね」と言われた際に、よく目にするのがeGFRの値です。これは、手軽に測定できる血液検査の結果から、おおよその腎臓の働きを把握するためです。
もしeGFRの値が基準値よりも低い場合、医師はさらに詳しい検査を検討します。その詳しい検査として、前述したイヌリンクリアランス法などを用いて、より正確なGFRを測定することがあります。これは、腎臓病の正確な病期(ステージ)を診断したり、治療法を決定したりする際に重要になります。
つまり、
- eGFR: スクリーニング(ふるい分け)として、腎臓の機能を大まかに把握するのに使われる。
- GFR: より正確な診断や治療計画のために、専門的な医療現場で使われる。
GFRとeGFR:数値の解釈と注意点
数値の意味を正しく理解するために
eGFRの値が低かったからといって、すぐに過度に心配する必要はありません。先ほども述べたように、加齢とともに数値は自然に低下しますし、一時的な脱水などによってもクレアチニン値が変動し、eGFRが一時的に低くなることもあります。大切なのは、この数値の変化を継続的に見ていくことです。
また、eGFRはあくまで「推定値」であるということを忘れないでください。特定の薬剤を服用していたり、筋肉量が極端に少なかったり(高齢者や痩せている方)、あるいは逆に多すぎたり(アスリートなど)すると、クレアチニン値が本来の腎臓の機能とは異なる値を示すことがあります。そのため、医師はこれらの要因も考慮して、結果を解釈します。
もしeGFRの値について不安がある場合は、自己判断せず、必ず医師に相談するようにしましょう。医師は、あなたの健康状態や他の検査結果を総合的に見て、適切なアドバイスをしてくれます。
GFRとeGFR:腎臓病との関連性
腎臓病の早期発見と進行度
GFRやeGFRは、腎臓病の早期発見と、その進行度を評価するための最も重要な指標の一つです。腎臓病は、初期段階では自覚症状がほとんどないため、知らぬ間に進行していることが多い病気です。そのため、定期的な健康診断でeGFRをチェックすることは、腎臓病の「サイレントキラー」としての側面から身を守るために非常に有効です。
eGFRの値が低下してくると、腎臓のろ過機能が弱まっているサインであり、これは慢性腎臓病(CKD)の進行を示唆しています。慢性腎臓病は、進行すると最終的には透析や腎移植が必要となる末期腎不全に至る可能性があります。しかし、早期に発見し、適切な治療や生活習慣の改善を行うことで、病気の進行を遅らせたり、合併症を予防したりすることが可能です。
例えば、高血圧や糖尿病は腎臓病の大きな原因となります。eGFRの低下が見られた場合、これらの基礎疾患の管理がより一層重要になります。
- 高血圧の管理
- 糖尿病の血糖コントロール
- 適正体重の維持
- 塩分・タンパク質の摂りすぎに注意した食事
- 禁煙
GFRとeGFR:健康維持のために知っておくべきこと
日頃からのケアと意識
GFRやeGFRといった腎臓の健康指標を理解することは、健康維持への第一歩です。日頃から、バランスの取れた食事を心がけ、適度な運動を習慣にし、十分な睡眠をとることが大切です。特に、高血圧や糖尿病などの持病がある方は、定期的な通院と医師の指示を守ることが、腎臓を守る上で非常に重要になります。
また、市販の薬の中には、腎臓に負担をかける可能性のあるものもあります。市販薬を使用する際や、処方薬について疑問がある場合は、薬剤師や医師に相談するようにしましょう。
- 定期的な健康診断を受ける
- 食生活に気をつける(塩分、タンパク質、加工食品など)
- 水分を適切に摂る(ただし、医師の指示がある場合はそれに従う)
- 市販薬やサプリメントの使用について医師や薬剤師に相談する
「gfr と egfr の 違い」を理解し、ご自身の健康状態に目を向けることで、より健康的な生活を送ることができます。もし健康診断などで気になる数値があった場合は、専門家である医師に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。