心筋 梗塞 と 狭 心 症 の 違い 心電図:知っておきたい基本的な知識

心筋梗塞と狭心症は、どちらも心臓の血管、つまり冠動脈が詰まることで起こる病気ですが、その深刻さや心電図に現れる変化には違いがあります。 心筋梗塞と狭心症の違いを心電図で理解することは、病気の早期発見と適切な治療に不可欠です。 この記事では、それぞれの病気の特徴と、心電図がどのようにそれらを区別するのかを分かりやすく解説します。

心臓のSOS!心電図が捉えるサインとは?

心筋梗塞と狭心症は、心臓の筋肉(心筋)に栄養や酸素を送る冠動脈という血管が細くなったり、詰まったりすることによって起こります。これらの病気は、放っておくと命に関わることもあります。 心筋梗塞と狭心症の違いを心電図で理解することは、治療方針を決める上で非常に重要になります。

心電図は、心臓が動くときに発生する微弱な電気信号を記録する検査です。この電気信号の変化を波形として捉えることで、心臓の状態を知ることができます。心電図は、比較的簡単で、痛みもなく、短時間でできる検査なので、心臓の病気の診断に欠かせないものとなっています。

  • 心筋梗塞: 冠動脈が完全に詰まり、心筋の一部が壊死(えし)してしまう状態。
  • 狭心症: 冠動脈が一時的に狭くなり、心筋への血流が不足する状態。
病名 冠動脈の状態 心筋への影響
心筋梗塞 閉塞(完全に詰まる) 壊死(一部が死んでしまう)
狭心症 狭窄(細くなる) 虚血(血流不足)

心筋梗塞の心電図:深刻な変化を捉える

心筋梗塞が起こると、心電図には特徴的な変化が現れます。これらの変化は、心臓のどの部分の血管が詰まっているか、どのくらい心筋がダメージを受けているかを知る手がかりとなります。 心電図は、心筋梗塞の診断において、まさに「命のサイン」を捉える役割を果たします。

心筋梗塞でよく見られる心電図の変化には、以下のようなものがあります。

  1. ST上昇: 心電図の波形の一部が、普段よりも上に大きく盛り上がって見える状態です。これは、心筋が損傷を受けていることを強く示唆します。
  2. 異常Q波: 普段は見られない、大きくて深いQ波が現れることがあります。これは、心筋が壊死してしまったことを示します。
  3. T波の異常: T波が平坦になったり、逆さまになったりすることもあります。

これらの変化は、梗塞が起こってからの時間経過によっても変化していきます。発症直後にはST上昇が目立ち、その後、異常Q波が出現し、T波の変化も続きます。

心電図でST上昇が見られた場合、それは緊急性が高い状態であり、迅速な治療が必要となります。例えば、カテーテル治療(血管を広げる処置)や血栓溶解療法(詰まった血の塊を溶かす薬)などが検討されます。

狭心症の心電図:一時的な変化を見逃さない

狭心症の場合、心電図の変化は心筋梗塞ほど劇的ではないことが多く、また、症状がないときや、症状が改善すると心電図も元に戻ることがあります。 心電図は、狭心症による一時的な血流不足のサインを捉えることが重要です。

狭心症でみられる心電図の変化としては、主に以下のものがあります。

  • ST低下: 心電図の波形の一部が、普段よりも下にさがって見える状態です。これは、心筋への血流が一時的に不足していることを示唆します。
  • T波の平坦化や反転: T波が平らになったり、逆さまになったりすることもあります。

これらの変化は、運動したり、ストレスを感じたりして心臓に負担がかかったときに現れることが多いです。安静にしたり、薬を使ったりすると、これらの心電図の変化は消えてしまうことがあります。そのため、狭心症の診断には、発作時の心電図記録が非常に役立ちます。

狭心症の診断においては、発作時の心電図だけでなく、患者さんの自覚症状(胸の痛みや圧迫感など)との関連も重要視されます。もし、運動中に胸が痛くなり、心電図でST低下が見られた場合は、狭心症が疑われます。

心電図の波形:ST部分の変化が鍵

心電図の波形は、P波、QRS波、T波などのいくつかの部分に分けられます。心筋梗塞と狭心症の違いを理解する上で、特に注目すべきは「ST部分」の変化です。 ST部分の変化を正確に読み取ることが、心筋梗塞と狭心症の鑑別において非常に重要です。

心電図におけるST部分は、心室が収縮して血液を送り出した後、次の収縮までの間の電気的な状態を表しています。この部分が、心臓の筋肉に異常がないかどうかのバロメーターとなるのです。

変化 病状 意味
ST上昇 心筋梗塞(急性期) 心筋が損傷・壊死している可能性が高い
ST低下 狭心症、心筋虚血 心筋への血流が一時的に不足している

ST部分が普段よりも上にずれる(上昇する)のは、心筋細胞がダメージを受けている、つまり心筋梗塞の可能性が高いサインです。一方、ST部分が下にずれる(低下する)のは、心筋への血流が一時的に足りていない、つまり狭心症のサインである可能性が考えられます。

病変の部位特定:心電図が教える場所

心電図は、心臓のどこに問題が起きているのか、つまり、どの冠動脈のどこが詰まっているのか、あるいは狭くなっているのかを推定するのに役立ちます。 心電図から病変の部位を特定することは、治療計画を立てる上で非常に重要です。

心臓には、右冠動脈、左前下行枝、左回旋枝という主要な3つの冠動脈があります。それぞれが心臓の異なる部分に血液を送っています。

  • 右冠動脈: 心臓の右側や下の方に血液を送ります。
  • 左前下行枝: 心臓の前の方や左側に血液を送ります。
  • 左回旋枝: 心臓の左側や後ろの方に血液を送ります。

心電図は、これらの血管が詰まったり狭くなったりしたときに、電気信号がどのように伝わりにくくなるかを記録します。例えば、左前下行枝の詰まりでは、心電図の特定の誘導(心電図の電極を貼る場所で、見える角度が違うもの)でST上昇や低下が強く見られることがあります。

心電図の波形を詳しく分析することで、医師は「この部分の心筋に血流不足が起きているな」と判断し、その原因となっている可能性のある血管を特定していきます。これは、カテーテル検査などで実際に血管を調べる前に、ある程度の見当をつけるための大切な情報となります。

発症からの時間経過:心電図の変化は時間とともに変わる

心筋梗塞や狭心症が起こってからの時間経過によって、心電図に現れる変化も変化していきます。 心電図の変化を時間経過とともに追うことは、病状の進行や治療の効果を評価するために重要です。

例えば、急性心筋梗塞では、発症直後から数時間、数日と時間が経つにつれて、心電図の波形は以下のように変化していくことがあります。

  1. 数分~数時間: ST上昇が最も顕著に見られる時期です。
  2. 数時間~数日: ST上昇は徐々に消え、異常Q波が出現し始めます。T波の変化も続きます。
  3. 数日~数週間: Q波がよりはっきりしてきます。

狭心症の場合も、症状が持続している間はST低下などの変化が見られますが、症状が改善すると心電図も元に戻ることが多いです。しかし、頻繁に症状が出る場合や、安静時にも症状が出るような不安定狭心症では、心電図の変化が持続することもあります。

このように、心電図は、病気の「今」だけでなく、「これから」どうなっていくのか、あるいは「治療が効いているか」を知るための貴重な情報源でもあるのです。

心電図以外の検査:より確実な診断のために

心電図は非常に有用な検査ですが、それだけで全ての心臓病が診断できるわけではありません。心筋梗塞や狭心症の確定診断、あるいは病状の程度を詳しく調べるためには、他の検査も組み合わせて行われます。 心電図と他の検査を組み合わせることで、より確実な診断と適切な治療計画を立てることができます。

代表的な検査には、以下のようなものがあります。

  • 血液検査: 心筋梗塞が起こると、心筋から特定の酵素(トロポニンなど)が血液中に漏れ出します。この酵素の値を調べることで、心筋梗塞の有無や程度を知ることができます。
  • 心臓超音波検査(心エコー): 心臓の動きや大きさをリアルタイムで観察し、心臓のポンプ機能がどの程度保たれているか、心筋に動きの悪い部分がないかなどを調べます。
  • 心臓カテーテル検査: 細くなった、あるいは詰まった冠動脈を直接調べる検査です。細くなっている部分があれば、その場でバルーン(風船)で広げたり、ステント(金属の筒)を留置したりする治療(カテーテル治療)を行うこともあります。

これらの検査は、心電図で得られた情報と合わせて総合的に判断されます。心電図は、まず「心臓に異常があるかもしれない」という疑いを強く持たせるきっかけとなる、非常に重要なスクリーニング(ふるい分け)検査と言えます。

まとめ:心電図は心臓の声を聞く窓

心筋梗塞と狭心症は、心臓の血管の病気であり、心電図はこれらの病気を診断するための最も基本的で重要な検査の一つです。 心筋梗塞と狭心症の違いを心電図で理解することは、命を守るための第一歩となります。

心電図の波形、特にST部分の変化に注目することで、心筋梗塞による壊死なのか、狭心症による一時的な血流不足なのかを区別する手がかりが得られます。また、心臓のどの部分に異常が起きているのか、発症からの時間経過による変化なども読み取ることができます。

しかし、心電図だけで全てがわかるわけではありません。症状や他の検査結果と合わせて総合的に判断することが大切です。もし、胸の痛みや圧迫感など、心臓の病気を疑う症状があれば、迷わず医療機関を受診し、心電図検査を受けてみてください。心電図は、あなたの心臓の声を聞くための、確かな窓なのです。

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