写真撮影において、PLフィルターとNDフィルターは、どちらもレンズに取り付けることで光の量を調整したり、特定の光をカットしたりする役割を持っていますが、その機能と効果には明確な違いがあります。この違いを理解することは、表現したいイメージに合わせたフィルター選びと、より魅力的な写真を生み出すために非常に重要です。今回は、この「PLフィルターとNDフィルターの違い」を詳しく解説していきます。
PLフィルターとNDフィルターの根本的な役割の違い
PLフィルター、正式には「偏光フィルター」と呼ばれるものは、特定の方向からの光だけを通し、不要な反射光やギラつきを抑える効果があります。たとえば、水面の反射を抑えて水中をクリアに見せたり、空の青さをより鮮やかにしたり、葉っぱのテカリを抑えて緑を深みのある色にしたりするのに役立ちます。つまり、PLフィルターは 光の「質」をコントロールする フィルターと言えるでしょう。
一方、NDフィルター、つまり「減光フィルター」は、フィルター全体で光の量を均一に減らす効果があります。これは、明るい場所でシャッタースピードを遅くしたい場合や、絞りを開けて被写界深度を浅くしたい場合に非常に役立ちます。NDフィルターには、透過する光の量をどれだけ減らすかによって、様々な濃さのものがあります。ND4、ND8、ND1000といった表記で表され、数字が大きくなるほど光を通さなくなります。
これらの違いから、PLフィルターが「反射やギラつきを抑え、色味を鮮やかにする」のに対し、NDフィルターは「光の量を減らし、シャッタースピードや絞りを自由にコントロールする」という、それぞれ異なる目的のために使用されます。
- PLフィルターの主な効果:
- 不要な反射光の抑制(水面、ガラスなど)
- 空の青さを強調
- 葉や草の色を深みのある緑に
- NDフィルターの主な効果:
- 光量を均一に減らす
- シャッタースピードの長時間露光を可能にする
- 開放F値での撮影を可能にする
| フィルター名 | 主な役割 | 効果 |
|---|---|---|
| PLフィルター | 光の質をコントロール | 反射抑制、色強調 |
| NDフィルター | 光の量を減らす | 露光時間・絞りの自由度向上 |
PLフィルターの仕組みと活用法
PLフィルターの最大の特徴は、その「偏光」という性質にあります。自然光は様々な方向に振動していますが、PLフィルターはこの振動を特定の方向に揃えることで、反射光などの不要な光をカットします。この効果は、フィルターを回転させることで調整できます。カメラのレンズにPLフィルターを取り付け、ファインダーを覗きながら回転させていくと、反射が消えたり、空の色が濃くなったりする様子が確認できるはずです。
PLフィルターは、特に風景写真でその威力を発揮します。例えば、太陽が水面やガラスに反射して白っぽくなっている場合、PLフィルターを使うことで、その反射を抑え、水中の様子をより鮮明に見せたり、ガラスの向こう側をクリアに撮影したりすることができます。また、空の青さを際立たせ、雲を立体的に見せる効果もあります。
PLフィルターは、その特性上、光量を約1~2段分減らす効果もあります。そのため、全く反射がなく、空もそれほど青くない状況でPLフィルターを装着すると、意図せず暗くなってしまうこともあります。PLフィルターの効果を最大限に引き出すためには、撮影したい被写体や状況に合わせて、フィルターの回転角度を調整することが重要です。
- PLフィルターをレンズに装着する。
- ファインダーを覗きながら、フィルターをゆっくり回転させる。
- 反射が消える、または空の色が濃くなるポイントを探す。
- その角度で撮影する。
NDフィルターの種類と使い分け
NDフィルターには、その減光量によっていくつかの種類があります。代表的なものとして、ND2(1段分減光)、ND4(2段分減光)、ND8(3段分減光)などがあります。また、より強力な減光効果を持つND1000(約10段分減光)といったものもあります。これらの数字は、光をどれだけ「減らす」かを示しています。
例えば、晴れた日の屋外で、被写体ブレを抑えずに水の流れを滑らかに写したい場合、シャッタースピードを遅くする必要があります。しかし、昼間の明るさでは、いくら絞りを絞ってもシャッタースピードを遅くできません。ここでNDフィルターの出番です。ND8などのNDフィルターを使うことで、光の量を減らし、カメラが適正露出を得るためにシャッタースピードを遅くしてくれるのです。
NDフィルターの選び方は、撮影したい状況によって変わってきます。例えば、滝の流れを絹糸のように写したいなら、ND8やND1000といった強力なNDフィルターが必要になるでしょう。一方、日中の撮影で少しだけシャッタースピードを遅くしたい程度であれば、ND4やND8で十分な場合もあります。
NDフィルターには、大きく分けて「ねじ込み式」と「角型」があります。ねじ込み式はレンズのフィルター径に合ったものを選び、直接ねじ込んで使用します。角型は、フィルターホルダーにセットして使用するため、複数のフィルターを重ねて使ったり、フィルターの交換が容易だったりするメリットがあります。どちらを選ぶかは、撮影スタイルや携帯性などを考慮して決めると良いでしょう。
- NDフィルターの減光量の目安:
- ND2:約1段分
- ND4:約2段分
- ND8:約3段分
- ND1000:約10段分
PLフィルターで表現できる「映り込み」のコントロール
PLフィルターの大きな魅力の一つは、写真に写り込む「映り込み」を意図的にコントロールできる点です。前述のように、水面やガラスなどの不要な反射を抑えることはもちろん、逆に、意図的に反射を残したい場合にも活用できます。
例えば、水面に映る空や建物のシルエットを美しく表現したい時、PLフィルターを調整することで、反射を完全に消すのではなく、適度な反射を残すことが可能です。これにより、写真に奥行きやドラマチックな雰囲気を与えることができます。この「映り込み」のコントロールは、PLフィルターならではの表現力と言えるでしょう。
PLフィルターは、単に反射を消すだけでなく、写真全体のコントラストや彩度にも影響を与えます。特に、空の青さを深めたり、緑の葉の色を鮮やかにしたりする効果は、写真の印象を大きく変えることができます。しかし、PLフィルターを強くかけすぎると、不自然な色合いになったり、写真が暗くなりすぎたりすることもあるため、注意が必要です。
PLフィルターは、その性質上、広角レンズで使う際に注意が必要です。広角レンズは広い範囲を写すため、空の青い部分とそうでない部分で色の出方が変わってしまうことがあります。また、逆光でPLフィルターを使用すると、ゴーストやフレアが発生しやすくなる場合もあります。これらの点に注意しながら、PLフィルターの効果を最大限に引き出すようにしましょう。
PLフィルターを効果的に使うためのポイント:
- 太陽の方向を意識する:太陽に対して90度の角度でPLフィルターを効果を発揮します。
- 回転角度を微調整する:ファインダーで確認しながら、最適な反射の抑え方や色味を見つけることが重要です。
- 広角レンズでの使用に注意する:空の色ムラやゴーストに注意しましょう。
NDフィルターで実現する「流れるような」表現
NDフィルターの最も魅力的な使い道の一つは、長時間露光による「流れるような」表現です。滝や川の流れ、波打ち際、雲の動きなどを、まるで絹糸のような滑らかな描写で捉えることができます。
例えば、滝を撮影する際にNDフィルターを使用しないと、水の粒が一つ一つ写ってしまい、動きが止まったような印象になってしまいます。しかし、NDフィルターを装着し、シャッタースピードを数秒から数十秒に設定することで、水の流れが一体となって滑らかに写し出され、幻想的な雰囲気を生み出すことができます。この効果は、風景写真に独特の詩情をもたらします。
NDフィルターは、日中の明るい時間帯に、絞りを開けて被写界深度を浅くしたい場合にも活躍します。例えば、ポートレート撮影で背景をぼかしたいが、日差しが強くて開放F値で撮影できない場合、NDフィルターを使うことで、明るさを抑え、背景を綺麗にぼかすことが可能になります。
NDフィルターの選び方には、撮影したい光景によって適切な「濃さ」があります。例えば、昼間の水面や空を長時間露光したい場合は、ND1000のような強力なNDフィルターが必要になります。一方、夕暮れ時や曇りの日など、比較的光量が少ない状況であれば、ND8やND4で十分な効果を得られることもあります。
NDフィルターを使った撮影の注意点:
- 長時間露光中は、カメラのブレを防ぐために三脚が必須です。
- 露出計を参考にしながら、適切なシャッタースピードと絞りを設定しましょう。
- NDフィルターの濃さに応じて、露出補正が必要になる場合があります。
PLフィルターとNDフィルターの併用について
PLフィルターとNDフィルターは、それぞれ異なる効果を持つため、組み合わせて使用することも可能です。例えば、晴れた日の屋外で、水面の反射を抑えつつ、滝の流れを長時間露光で滑らかに撮影したい場合などが考えられます。
この場合、まずPLフィルターで水面の反射を調整し、その後にNDフィルターを装着して光量を減らす、という手順になります。ただし、PLフィルター自体も光量を減らす効果があるため、両方を重ねて使用すると、さらに光量が減ることになります。そのため、露出の調整には十分な注意が必要です。
PLフィルターとNDフィルターを併用する際の注意点:
- PLフィルターは、NDフィルターよりも先に装着するのが一般的です。
- 両方のフィルターで光量が減るため、露出計などを活用して正確な露出を把握することが重要です。
- フィルターの枚数が増えると、画質が低下する可能性も考慮しましょう。
併用することで、より複雑でクリエイティブな写真表現が可能になります。例えば、PLフィルターで空の青さを強調しつつ、NDフィルターで長時間露光を行うことで、ドラマチックな風景写真を撮ることができます。
PLフィルターとNDフィルターの選び方と価格帯
PLフィルターとNDフィルターを選ぶ際には、いくつかのポイントがあります。まず、自分のカメラのレンズのフィルター径(例:φ52mm、φ67mmなど)を確認し、それに合ったサイズのフィルターを選びましょう。フィルター径が合わないと、取り付けることができません。
次に、フィルターの「質」も重要です。安価なフィルターの中には、画質を低下させたり、色かぶりを起こしたりするものがあります。特に、PLフィルターは色再現性が重要なので、信頼できるメーカーの製品を選ぶことをおすすめします。
NDフィルターの場合は、どれくらいの減光量が必要か、という点を考慮して選びます。普段使いで少しだけシャッタースピードを遅くしたい程度であれば、ND4やND8などの比較的薄いものから試してみると良いでしょう。滝や渓流などを長時間露光で撮影したい場合は、ND1000のような強力なものが必要になります。
価格帯としては、PLフィルターもNDフィルターも、安価なものから高価なものまで幅広く存在します。一般的に、有名メーカーの高品質なフィルターほど価格は高くなりますが、その分、画質や耐久性などの面で優れています。まずは、予算に合わせて、必要最低限の機能を持つものから購入し、徐々にグレードアップしていくのも一つの方法です。
フィルターを選ぶ際のポイント:
- レンズのフィルター径を確認する。
- 必要な減光量(NDフィルターの場合)や効果(PLフィルターの場合)を検討する。
- 信頼できるメーカーの製品を選ぶ。
- 予算と相談しながら、品質とのバランスを考える。
まとめ:PLフィルターとNDフィルターの違いを理解して、表現の幅を広げよう
PLフィルターとNDフィルターは、それぞれ異なる目的で光をコントロールし、写真表現の可能性を広げてくれる重要なアイテムです。PLフィルターは反射やギラつきを抑え、空の青さや緑の鮮やかさを際立たせる「光の質」を調整するフィルター。一方、NDフィルターは光量を均一に減らし、シャッタースピードや絞りの自由度を高める「光の量」を調整するフィルターです。
これらの「PLフィルターとNDフィルターの違い」をしっかりと理解し、撮影したいシーンや表現したいイメージに合わせて適切に使い分けることで、あなたの写真表現は格段に豊かになるはずです。ぜひ、それぞれのフィルターの効果を試しながら、自分だけの魅力的な写真を撮り続けてください。