高 機能 自 閉 症 と アスペルガー の 違い、これってどう違うの?

「高機能自閉症」と「アスペルガー症候群」という言葉、耳にしたことはありますか?近年、これらの診断名が使われなくなってきていますが、かつてはよく使われていました。 高機能自閉症とアスペルガー症候群の違い について、そしてなぜ診断名が変わってきたのか、わかりやすく解説していきますね。

昔の診断名「高機能自閉症」と「アスペルガー症候群」

昔、「高機能自閉症」と「アスペルガー症候群」は、自閉スペクトラム症(ASD)という大きな枠組みの中で、それぞれ少し違う特性を持つものとして区別されていました。しかし、実際には、両者に明確な線引きをするのが難しく、似ている点もたくさんあったのです。 この二つの違いを理解することは、当事者の方々やその周りの人々にとって、より的確な理解とサポートにつながる重要なことでした。

  • 高機能自閉症 :知的発達に遅れがなく、言葉の発達も比較的順調な傾向がある自閉症。
  • アスペルガー症候群 :こちらも知的発達に遅れがなく、言葉の遅れが目立たないことが多い。しかし、対人関係やコミュニケーション、興味の偏りといった自閉症の特性が見られる。

どうでしょうか?こうして見ると、かなり似ていると思いませんか?この似ている部分が、診断を難しくしていた理由の一つでもありました。

かつて、診断基準では以下のような違いが考慮されていました。

項目 高機能自閉症 アスペルガー症候群
言葉の遅れ 目立たない、またはない 目立たない、またはない
知的発達 遅れがない 遅れがない
社会的相互作用 困難が見られる 困難が見られる
限定された興味・反復行動 見られる 見られる

診断名の変化:なぜ「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」がなくなったのか?

実は、最新の診断基準(DSM-5)では、「高機能自閉症」や「アスペルガー症候群」といった個別の診断名は使われなくなりました。代わりに、これらはすべて「自閉スペクトラム症(ASD)」という一つの診断名にまとめられたのです。

この変化には、いくつか理由があります。

  1. 特性の連続性 :自閉症の特性は、人によって様々ですが、その現れ方には連続性があると考えられています。つまり、「高機能自閉症」や「アスペルガー症候群」と区別するよりも、同じスペクトラム(連続体)として捉える方が、より自然な理解ができるということです。
  2. 診断のばらつき :以前の診断基準では、医師によって「高機能自閉症」と「アスペルガー症候群」のどちらに当てはまるかの判断が異なったり、診断が難しかったりすることがありました。
  3. 一貫した支援の必要性 :診断名が細かく分かれるよりも、ASDとして共通の特性を持つ人々に対し、一貫した理解と支援を提供することが大切だと考えられるようになりました。

つまり、 「高機能自閉症」や「アスペルガー症候群」という診断名がなくなったからといって、これらの特性を持った方々がいなくなったわけではありません。 彼らが持っているユニークな才能や、日常生活で感じる困難さは、今も変わらず存在します。むしろ、ASDという大きな枠組みで捉えることで、より多くの人がその特性を理解しやすくなったと言えるでしょう。

ASD(自閉スペクトラム症)としての理解

ASDは、生まれつきの脳の特性によるものです。そのため、本人の意思や努力だけで簡単に変えられるものではありません。ASDの特性としては、主に以下のようなものがあります。

  • 社会的コミュニケーションの困難 :相手の気持ちを読み取ったり、場の空気を読んだりすることが苦手な場合があります。また、言葉の裏を理解するのが難しかったり、比喩表現が苦手だったりすることもあります。
  • 限定された興味や反復行動 :特定の物事に強いこだわりを持ったり、決まった手順に沿って行動することを好んだりします。急な予定変更に戸惑うこともあります。
  • 感覚過敏・鈍麻 :聴覚、視覚、触覚、味覚、嗅覚など、感覚に対する感じ方が、他人と異なったり、極端に敏感だったり、逆に鈍感だったりすることがあります。

これらの特性の現れ方や程度は、人それぞれ全く異なります。だからこそ、「スペクトラム(連続体)」という言葉が使われているのですね。

コミュニケーションの難しさ:言葉の裏を読むのが苦手?

ASDのある方々にとって、コミュニケーションは時に大きな壁となります。例えば、相手が冗談を言っているのに、それを真に受けてしまったり、皮肉や遠回しな表現を理解するのが難しかったりします。これは、悪意があるわけではなく、文字通りの意味で捉える傾向があるためです。

コミュニケーションの困難さを理解することは、誤解を防ぎ、より円滑な人間関係を築く上で非常に重要です。

  1. 直接的で明確な伝え方 :遠回しな言い方ではなく、「〜してください」「〜しましょう」のように、具体的に伝えることが大切です。
  2. 非言語情報の捉え方 :表情や声のトーン、ジェスチャーといった非言語的な情報から相手の意図を読み取るのが苦手な場合があります。言葉で補足してあげると、理解しやすくなります。
  3. 一方的な会話の回避 :自分の興味のあることについて、相手の反応を気にせず一方的に話し続けてしまうことがあります。相手にも話す機会を与える、質問を投げかけるといった配慮が有効です。

興味の偏りとこだわり

ASDのある方々は、特定の分野に強い興味を持ち、その知識を深めることに熱中することがよくあります。これは、才能の開花につながる素晴らしい特性ですが、一方で、その興味以外のことには関心が向きにくかったり、急な変化に対応するのが難しかったりする場合があります。

  • 「好き」を大切にする :その方の「好き」や「得意」を尊重し、それを伸ばせるような環境を提供することが大切です。
  • 変化への配慮 :予定の変更や新しいことへの挑戦には、事前に丁寧に説明したり、段階を踏んで慣れていく時間を与えたりすることが効果的です。
  • ルーティン(決まった手順)の重要性 :日々の生活に決まった手順やルールがあると、安心感を得られ、落ち着いて過ごせる場合があります。

これらのこだわりは、一見すると「融通が利かない」ように見えることもありますが、それは安心できる環境を自分で作り出そうとする、大切な戦略なのです。

感覚過敏・鈍麻:見えない「刺激」との戦い

ASDのある方の中には、感覚過敏や鈍麻といった特性を持つ方が少なくありません。これは、私たちが普段当たり前のように受け止めている感覚が、極端に強く感じられたり、逆に鈍く感じられたりする状態です。 この感覚の特性は、当事者の方々にとって、日常生活を大きく左右するほどの影響を与えることがあります。

例えば、

感覚 過敏な場合 鈍麻な場合
聴覚 人の話し声や電子音、掃除機の音などが耐えられないほど大きく聞こえる 大きな音にも気づかない、痛みを感じにくい
視覚 蛍光灯の光が眩しすぎて直視できない、特定の模様が気になってしまう 周りの状況にあまり注意を払わない
触覚 服のタグや seams(縫い目)がチクチクして嫌だ、特定の感触が苦手 痛みや暑さ寒さを感じにくい、物にぶつかっても気づかない

これらの感覚の特性を理解することで、不必要なストレスを減らし、快適に過ごせるような工夫ができます。例えば、静かな場所を用意する、ノイズキャンセリングイヤホンを使う、触り心地の良い素材の服を選ぶ、などが考えられます。

「高機能」という言葉について

「高機能」という言葉は、知的発達や言語能力に遅れがないことを指す場合に使われました。しかし、この言葉には「機能が高い」というポジティブな響きがある一方で、「機能が低い」という言葉にはネガティブなイメージがつきまといがちです。また、ASDの特性は、能力の高さ・低さで測れるものではないという考え方が強まってきました。

  • 能力の多様性 :ASDの特性は、能力の優劣ではなく、あくまで脳の機能の仕方の違いです。
  • 「高機能」というレッテル :この言葉が、かえって当事者の方々を理解する上での妨げになることもありました。
  • 個々の特性の尊重 :診断名に惑わされず、一人ひとりの持っている個性や強み、そして困難さを理解することが大切です。

ASDと診断されていても、その特性を活かして様々な分野で活躍されている方はたくさんいらっしゃいます。

まとめ:違いよりも「理解」と「尊重」を

「高機能自閉症」と「アスペルガー症候群」という昔の診断名は、現在では「自閉スペクトラム症(ASD)」という一つの枠組みに統合されました。これは、これらの特性が連続性を持っていること、そして個々の特性をより柔軟に理解し、一貫した支援を行うためです。

大事なのは、診断名にとらわれることではなく、その方がどのような特性を持っていて、どのようなことに困っていたり、どのようなことに喜びを感じたりするのかを、一人ひとり理解し、尊重することです。お互いを理解し、認め合うことで、より温かい社会を作っていきましょう。

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