「脱肛(だっこう)」と「脱腸(だっちょう)」、どちらも体の内部が外に出てしまうというイメージがありますが、実はこれ、医学的には全く異なる状態を指す言葉なんです。この二つの言葉の 違いを正しく理解することは、体の不調を感じた時に適切な対処をしたり、心配を軽減したりするために非常に重要 です。
「脱肛」と「脱腸」はどこが違う?基本から徹底解説
まず、結論から言うと、「脱肛」は肛門から直腸の一部が飛び出してしまう状態を指します。一方、「脱腸」は、お腹の中の臓器(主に腸)が、お腹の壁にできた隙間から飛び出してしまう状態のことです。このように、 脱肛 と 脱腸 の 違いは、飛び出している場所と、飛び出しているものが決定的に違う のです。
- 脱肛: 肛門(=お尻の穴)から直腸の一部が飛び出す。
- 脱腸: お腹の壁の隙間から、腸などの内臓が飛び出す。
例えば、排便時にいきむことで肛門が緩み、粘膜や直腸が外に出てきてしまうのが脱肛です。これは、いわゆる「いぼ痔」の進行した状態と関連があることも多いです。対して脱腸は、生まれつきお腹の壁が弱い場合や、重い物を持ち上げるなどの物理的な力が加わったことで、お腹の中にあったものが外に飛び出してくるイメージです。どちらも心配な状態ですが、原因や対処法が全く異なります。
| 症状 | 飛び出す部位 | 主な原因 |
|---|---|---|
| 脱肛 | 直腸の一部 | 便秘、下痢、いきみすぎ |
| 脱腸 | 腸などの内臓 | 腹圧の上昇、腹壁の弱さ |
脱肛:肛門から起こる、あの「プチッ」の正体
脱肛について、もう少し詳しく見ていきましょう。脱肛は、主に肛門を締める筋肉(肛門括約筋)や、直腸を支える組織が弱くなることで起こります。これらが弱まると、排便時のいきみや、長時間座っていることなどによって、直腸の粘膜や一部が肛門の外に押し出されてしまうのです。
- 初期: 便が出るときに、少しだけ肛門の外に何か出ている感じがする。
- 中期: 普段から肛門の外に飛び出していることがあり、指で押し込まないと戻らない。
- 進行期: 飛び出したものが自然には戻らず、歩いたり咳をしたりするだけでも出てきてしまう。
脱肛の症状は、飛び出す部分の大きさや、戻るかどうかによって段階が分けられます。初期であれば、生活習慣の改善で自然に治ることもありますが、進行してしまうと手術が必要になる場合もあります。 早期発見と適切な治療は、脱肛の改善において非常に大切 です。
脱腸:お腹の「ポッコリ」は要注意!
次に、脱腸についてです。脱腸は、お腹の壁にできた隙間から、腸や脂肪などの内臓が外に飛び出してくる状態です。この飛び出した部分を「ヘルニア」と呼ぶこともあります。脱腸にはいくつかの種類があり、飛び出す場所によって名前が変わってきます。
- 鼠径(そけい)ヘルニア: 太ももの付け根(足の付け根)にできる脱腸。男性に多いです。
- 臍(さい)ヘルニア(でべそ): おへその部分にできる脱腸。赤ちゃんに多く見られますが、大人でも起こります。
- 腹壁ヘルニア: お腹の他の部分にできる脱腸。
脱腸は、見た目ではお腹や足の付け根が「ポッコリ」と腫れているように見えます。横になったり、寝ている間に自然に引っ込んだりすることもありますが、立ち上がったり、お腹に力がかかったりすると再び飛び出してきます。 万が一、飛び出したものが戻らなくなり、強い痛みを伴う場合は、緊急の処置が必要になることも あります。
脱肛と脱腸、それぞれの原因を深掘り
脱肛と脱腸、それぞれ原因が異なります。脱肛は、肛門周辺の組織の衰えや、肛門に負担がかかることが主な原因です。便秘でいきむ、下痢が続く、重い物を持ち上げる、出産などがきっかけになることがあります。年齢とともに肛門括約筋の力が弱くなることも、原因の一つとして考えられます。
一方、脱腸は、お腹の中の圧力(腹圧)が高まることと、お腹の壁が弱くなることが組み合わさって起こります。腹圧が高まる原因としては、
- 慢性的な便秘や排尿困難
- 重い物を持ち上げる仕事
- 激しい咳が続く(肺気腫など)
- 肥満
などが挙げられます。お腹の壁が元々弱い、または出産などで腹壁が緩んでしまうことも、脱腸になりやすい要因となります。
見分け方:ここをチェック!
脱肛と脱腸、見た目や症状でどのように見分けることができるのでしょうか。まず、 脱肛は、お尻の穴(肛門)のあたりに違和感や痛み、出血などを感じることが特徴 です。排便時や、長時間座っているとき、歩いているときなどに、肛門から何かが出ている、または出そうだと感じることが多いでしょう。出血は、トイレットペーパーにつく程度から、下着が汚れるほどまで様々です。
対して、 脱腸は、お腹や足の付け根などに、柔らかい「しこり」のようなものが現れるのが特徴 です。このしこりは、押すと引っ込んだり、横になると消えたりすることがあります。痛みは、しこりが大きくなったり、ヘルニアが嵌頓(かんとん:飛び出したものが戻らなくなること)したりした場合に強く現れます。お腹の違和感や、重い感じを訴える人もいます。
それぞれの症状をまとめた表を見てみましょう。
| 症状 | 脱肛 | 脱腸 |
|---|---|---|
| 場所 | 肛門周辺 | お腹、足の付け根、おへそなど |
| 主な違和感 | 異物感、痛み、出血、むずがゆさ | 「ポッコリ」とした腫れ、圧迫感、重い感じ |
| 体勢による変化 | 排便時やいきみで悪化 | 横になると引っ込むことがある |
専門医への相談:いつ、どんな時に?
脱肛や脱腸は、自己判断せずに専門医に相談することが大切です。 「なんだかおかしいな」と感じたら、早めに医療機関を受診することをおすすめします 。脱肛の場合は、肛門科や消化器内科を受診すると良いでしょう。脱腸の場合は、外科や消化器外科を受診するのが一般的です。
特に、以下のような症状がある場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
- 急激な強い痛み: 特に脱腸が嵌頓(かんとん)している可能性があります。
- 飛び出したものが戻らない: 脱腸が嵌頓しているサインです。
- 出血が止まらない: 脱肛が進行している、または別の病気の可能性もあります。
- 排便・排尿ができない: 緊急の処置が必要な場合があります。
- 発熱を伴う痛み: 感染症などの合併症も考えられます。
治療法:手術は必要?
脱肛と脱腸の治療法は、症状の程度や原因によって異なります。軽度の脱肛であれば、食事や生活習慣の改善、便秘薬や下剤の調整、薬による治療などで改善することもあります。しかし、進行してしまった脱肛や、繰り返す場合は、手術が必要になることがあります。手術の方法には、内痔核根治術や、粘膜下直腸切除術などがあります。
脱腸の治療は、基本的には手術が中心となります。手術によって、飛び出した内臓を元の場所に戻し、お腹の壁の隙間を補強します。補強の方法には、自分の組織を使う方法や、人工のネット(メッシュ)を使う方法などがあります。最近では、腹腔鏡を使った低侵襲手術も行われており、回復が早いというメリットがあります。
治療法は、患者さんの年齢や健康状態、脱腸の種類などを考慮して、医師と相談しながら決定されます。 無理な自己判断はせず、専門医の診断と指示に従うことが最も重要 です。
「脱肛」と「脱腸」は、似ているようで全く違う体の状態であることがお分かりいただけたでしょうか。どちらも、体に異変を感じた時は、早めに専門医に相談することが大切です。正しい知識を持って、健康な毎日を送りましょう。