「肺気腫」と「肺水腫」、どちらも肺の病気で、息苦しさを感じるという共通点がありますが、その原因やメカニズムには大きな違いがあります。今回は、この 肺気腫 と 肺 水腫 の 違い を分かりやすく解説し、それぞれの病気について理解を深めていきましょう。
肺気腫と肺水腫、何が違うの?
肺気腫と肺水腫の最も大きな違いは、肺の「構造」に問題があるのか、それとも肺に「水」が溜まることが問題なのかという点です。肺気腫は、肺の組織そのものが壊れてしまう病気です。一方、肺水腫は、肺の組織に異常がなくても、肺の中に液体が過剰に溜まってしまう状態を指します。この根本的な違いを理解することが、それぞれの病気の特徴を把握する第一歩となります。
例えるなら、肺気腫は風船が破れて空気が漏れてしまうようなイメージです。風船の「壁」が弱くなってしまうことで、空気(酸素)をうまく取り込めなくなったり、二酸化炭素をうまく外に出せなくなったりします。一方、肺水腫は、風船の中に水が溜まってパンパンになってしまうイメージです。風船自体は破れていなくても、水がたくさん入ることで、風船が膨らみにくくなり、息苦しさを感じます。
これらの違いを理解するために、それぞれの特徴をもう少し詳しく見ていきましょう。
- 肺気腫: 肺胞(はいほう)という、酸素のやり取りをする小さな袋が壊れてしまう。
- 肺水腫: 肺の中に、本来ないはずの水分が溜まってしまう。
肺気腫:風船が壊れる病気
肺気腫は、主にタバコの煙などの有害物質によって、肺の中にある「肺胞」という部分が壊れてしまう病気です。肺胞は、私たちが息を吸うときに酸素を取り込み、吐き出すときに二酸化炭素を外に出すという、とても大切な役割を担っています。この肺胞が壊れてしまうと、酸素のやり取りがうまくできなくなり、息苦しさや咳、痰(たん)などの症状が現れます。
肺気腫の主な原因は、喫煙です。長期間タバコを吸い続けることで、肺胞を壊す物質が活性化し、徐々に肺がダメージを受けていきます。受動喫煙でもリスクは高まります。
| 原因 | 主に喫煙、PM2.5などの大気汚染 |
| 肺への影響 | 肺胞壁が破壊され、弾力性を失う |
| 主な症状 | 息切れ、咳、痰、喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー、ゼーゼーという呼吸音) |
肺気腫は、一度壊れてしまった肺胞は元に戻らないため、根本的な治療は難しい とされています。そのため、病気の進行を遅らせることが治療の目標となります。
肺水腫:肺に水が溜まる病気
肺水腫は、肺の血管から肺の組織に水分が漏れ出して、肺の中に過剰に溜まってしまう状態です。この溜まった水分が、酸素を血液に取り込むのを邪魔してしまうため、息苦しさを感じます。肺水腫には、いくつかの原因がありますが、代表的なのは心臓の機能が低下する「心原性肺水腫」です。
心臓のポンプ機能が弱まると、血液を全身に送り出す力が弱まります。その結果、肺に血液が滞りやすくなり、血管から水分が染み出して肺に溜まってしまうのです。その他にも、腎臓の病気や、呼吸器系の感染症、アレルギー反応などが原因で肺水腫が起こることもあります。
肺水腫の治療は、その原因によって異なります。心臓の病気が原因であれば、心臓の働きを助ける薬を使ったり、水分や塩分を制限したりします。呼吸器系の問題が原因であれば、酸素吸入や、原因となっている病気の治療を行います。
- 心臓の機能低下
- 腎臓の病気
- 呼吸器系の感染症
- アレルギー反応
肺水腫は、原因によっては急激に症状が悪化することもあるため、早期発見と適切な治療が非常に重要です。
症状の違い:息切れだけじゃない!
肺気腫と肺水腫、どちらも息切れという共通の症状がありますが、その他の症状には違いが見られます。肺気腫では、慢性的な咳や痰が特徴的で、特に朝方にひどくなることがあります。また、肺の機能が低下していくにつれて、体を動かすことが困難になっていきます。
一方、肺水腫では、急激な息切れが起こることが多く、横になると息苦しさが増す(起座呼吸:きざこきゅう)という特徴があります。また、ピンク色の泡状の痰が出ることがあり、これは肺に水が溜まっているサインの一つです。心臓の病気が原因の場合は、動悸や足のむくみといった症状を伴うこともあります。
- 肺気腫: 慢性的な咳、痰、進行性の息切れ
- 肺水腫: 急激な息切れ、横になると苦しい、ピンク色の泡状の痰
原因の深掘り:タバコ vs 心臓
肺気腫の主な原因は、先ほども触れたように、喫煙による肺胞の破壊です。タバコの煙に含まれる有害物質が、肺の組織を傷つけ、肺胞の壁を壊してしまうのです。長期間にわたる喫煙歴がある方に多く見られます。
対して、肺水腫の原因は多岐にわたりますが、最も多いのは心臓の病気です。心臓が全身に血液を送り出すポンプとしての役割を十分に果たせなくなると、肺に血液が逆流しやすくなり、水分が漏れ出してしまいます。その他、腎臓の機能が低下して体内の水分バランスが崩れることや、肺炎などの感染症によって肺の血管が傷つくことも原因となり得ます。
原因を特定することは、適切な治療法を選択する上で非常に重要です。
診断方法:どうやって見分ける?
医師は、患者さんの症状や病歴を聞き取るだけでなく、様々な検査を行って肺気腫と肺水腫を診断します。肺気腫の診断では、肺の機能を調べる「スパイロメトリー(呼吸機能検査)」や、肺の様子を詳しく見るための「胸部X線検査」「胸部CT検査」などが行われます。
肺水腫の診断では、肺のX線検査で肺に水が溜まっている様子を確認することが一般的です。また、心臓の病気が原因かどうかを調べるために、「心電図」「心エコー検査(心臓の超音波検査)」なども行われます。血液検査で、心臓の負担を示す数値などを調べることもあります。
これらの検査結果を総合的に判断することで、医師はどちらの病気であるかを正確に診断していきます。
治療法の違い:進行を遅らせる vs 水分を抜く
肺気腫の治療は、病気の進行を遅らせることが主な目的となります。禁煙は最も重要で、これ以上肺へのダメージを与えないことが大切です。また、気管支を広げる薬(気管支拡張薬)や、炎症を抑える薬(ステロイド薬)などが使われることがあります。重症の場合は、酸素吸入や、肺移植といった治療法が検討されることもあります。
肺水腫の治療は、原因となっている病気に対して行われます。心臓の病気が原因の場合は、利尿薬を使って体内の余分な水分を排出し、心臓の負担を減らします。また、心臓の働きを助ける薬や、血圧を下げる薬などが処方されます。呼吸器系の問題が原因の場合は、原因となっている感染症の治療や、酸素吸入が行われます。
このように、肺気腫と肺水腫では、治療の方向性が大きく異なります。
まとめ
肺気腫と肺水腫は、どちらも呼吸器系の病気で、息苦しさを感じさせますが、その原因やメカニズム、そして治療法には明確な違いがあります。肺気腫は肺の組織そのものが壊れる病気であり、主に喫煙が原因です。一方、肺水腫は肺に水分が溜まる状態で、心臓の病気など様々な原因で起こります。これらの違いを理解することは、ご自身の健康を守る上で非常に役立ちます。もし、息苦しさなどの症状を感じたら、早めに医師に相談しましょう。