仏教の中でも特に日本で広く信仰されている浄土教。しかし、「浄土真宗」と「浄土宗」という名前を聞いたことはあっても、その具体的な違いについて、いまいちピンとこないという方もいるのではないでしょうか。今日は、そんな 浄土 真宗 と 浄土宗 の 違い を、みなさんが理解しやすいように、一つずつ丁寧に紐解いていきましょう。
宗祖と教えの核心：根本的な違い
まず、一番分かりやすい違いは、それぞれの教えを説いた宗祖（しゅうそ）にあります。浄土宗は、法然上人（ほうねんしょうにん）によって開かれました。法然上人は、「念仏を唱えれば、誰でも極楽浄土へ往生できる」という、シンプルで分かりやすい教えを広めました。一方、浄土真宗は、親鸞聖人（しんらんしょうにん）が開いた宗派です。親鸞聖人は法然上人の弟子にあたり、法然上人の教えをさらに深く掘り下げ、「阿弥陀仏（あみだぶつ）の本願（ほんがん）による救いを信じること」を最も大切にしました。
この「阿弥陀仏の本願による救い」というのが、浄土真宗の教えの核心です。具体的には、阿弥陀仏が立てた「どんな人でも必ず極楽浄土へ救い摂る」という誓いのことを指します。浄土真宗では、この阿弥陀仏の本願を疑わずに信じる「信心（しんじん）」があれば、たとえどんなに悪い行いをした人でも、阿弥陀仏の力によって必ず救われると説いています。これを「他力本願（たりきほんがん）」と言います。
浄土宗と浄土真宗の教えの核心をまとめると、以下のようになります。
- 浄土宗 : 念仏を唱えることが往生の道（自力と他力の両方を重んじる）
- 浄土真宗 : 阿弥陀仏の本願を信じる信心が往生の道（他力本願を強調）
念仏の唱え方：実践の違い
では、実際にどのような違いがあるのでしょうか。浄土宗では、阿弥陀仏の名前を唱える「念仏」は、往生のための大切な行いと考えられています。念仏を唱える回数や、その声の大きさ、念じ方にも、様々な考え方や実践方法があります。例えば、「六時礼讃（ろくじらいさん）」のような、決まった時間に念仏を唱える法要も行われます。
一方、浄土真宗では、念仏は「称名念仏（しょうみょうねんぶつ）」と呼ばれ、阿弥陀仏の本願を信じる「信心」の現れ、あるいはその信心に感謝して唱えるものとされています。つまり、念仏を唱えること自体が往生の「条件」ではなく、往生が約束されていることへの感謝の表現なのです。そのため、形式にとらわれすぎず、日々の生活の中で阿弥陀仏の救いに感謝する気持ちを持つことが大切だとされています。
念仏の唱え方に関する違いを整理すると、次のようになります。
| 宗派 | 念仏の位置づけ | 重視されること |
|---|---|---|
| 浄土宗 | 往生のための大切な行い | 念仏を唱えること |
| 浄土真宗 | 信心の現れ、感謝の表現 | 阿弥陀仏の本願を信じる信心 |
お葬式や法要の形式：儀式の違い
お葬式やお彼岸、お盆などの法要における形式も、浄土宗と浄土真宗では異なります。浄土宗のお葬式では、故人が極楽浄土へ無事に往生できるように、導師（どうし：お経を唱える僧侶）がお経を唱え、念仏を唱えながら故人を浄土へ送り出す儀式が行われます。念仏を唱えることで、故人が浄土に迎えられると信じられています。
一方、浄土真宗のお葬式は、「臨終勤行（りんじゅうごんぎょう）」や「通夜（つや）」、「葬儀（そうぎ）」といった形式で執り行われますが、その意味合いは少し異なります。浄土真宗では、阿弥陀仏の本願によって、人は亡くなった瞬間に極楽浄土へ往生できるとされています。そのため、お葬式は、故人がすでに浄土へ往生できたことへの「報謝（ほうしゃ）」、つまり感謝を捧げる場という意味合いが強いのです。
儀式の形式の違いについて、もう少し詳しく見てみましょう。
- 浄土宗 : 故人の往生を願う儀式、念仏による導きを重視。
- 浄土真宗 : 故人がすでに往生できたことへの感謝を捧げる儀式。
「本尊」と「開山」：信仰の対象と開かれた人物
信仰の対象である「本尊（ほんぞん）」も、両宗派で異なります。浄土宗の多くは、中央に阿弥陀仏、その両脇に観音菩薩（かんのんぼさつ）と勢至菩薩（せいしぼさつ）を安置しています。この三尊を「阿弥陀三尊（あみださんぞん）」と呼びます。
対して、浄土真宗では、阿弥陀仏のみを本尊としてお祀りすることが一般的です。これは、阿弥陀仏の本願こそが救いの全てであるという教えを、より明確に表しています。ただし、宗派によっては、親鸞聖人の像を脇侍（わきじ：本尊の左右に安置される像）としてお祀りする場合もあります。
また、「開山（かいざん）」という言葉も、それぞれの宗派を特徴づける上で重要です。開山とは、その宗派を「開いた」人物のことです。浄土宗の開山は、先述の通り法然上人です。そして、浄土真宗の開山は、法然上人の弟子である親鸞聖人です。この関係性を理解すると、両宗派の教えの発展や違いがより見えてきます。
「ご本山」の場所：聖地巡礼
それぞれの宗派にとって、非常に大切とされる「ご本山」。これは、その宗派の開祖が住んでいた場所や、教えが発展した中心地などを指します。浄土宗のご本山は、京都にある「知恩院（ちおんいん）」が有名です。法然上人が念仏の教えを広めたゆかりの地であり、多くの参拝者が訪れます。
一方、浄土真宗のご本山は、本願寺派（ほんがんじは）と、大谷派（おおたには）という二つの系統に分かれています。本願寺派のご本山は「西本願寺（にしほんがんじ）」、大谷派のご本山は「東本願寺（ひがしほんがんじ）」と呼ばれ、どちらも京都市にあります。これらのご本山は、浄土真宗の教えを今に伝える大切な場所です。
ご本山の場所をまとめると、以下のようになります。
- 浄土宗 : 知恩院（京都）
-
浄土真宗
:
- 本願寺派: 西本願寺（京都）
- 大谷派: 東本願寺（京都）
このように、浄土真宗と浄土宗は、宗祖や教えの核心、念仏の捉え方、儀式の形式、本尊、そしてご本山の場所など、様々な面で違いがあります。しかし、どちらも阿弥陀仏の救いを信じ、人々の幸せを願うという、根本的な部分は共通しています。