皆さんは、私たちの体の中で起こっている「転写」と「翻訳」という言葉を聞いたことがありますか？これらは、生命の設計図とも言えるDNAの情報が、私たちの体を作るタンパク質へと変わっていくための、とっても大切なプロセスなんです。一見似ているように思えるかもしれませんが、実はこの「転写 と 翻訳 の 違い」を理解することは、生物学の基本中の基本！今回は、この二つの違いを、身近な例えを交えながら分かりやすく解説していきます。
「転写」とは？DNAの情報を一時的にコピーする作業
さて、まずは「転写」から見ていきましょう。転写とは、DNAに書かれている遺伝情報を、RNAという別の物質に「コピー」する作業のことです。例えるなら、図書館にある大切な本（DNA）から、一時的にメモ帳（RNA）に書き写すようなイメージです。DNAは細胞の核という場所に大切にしまわれていますが、タンパク質を作るためには、核の外に出ていく必要があります。しかし、DNAはとても大切な情報源なので、そのまま外に出すわけにはいきません。そこで、DNAの一部分の情報だけをRNAに写し取って、それを核の外へ運び出すのです。
この転写のプロセスには、いくつかの重要なポイントがあります。
- DNAの特定の場所（遺伝子）がコピーされる ：DNA全体がコピーされるわけではなく、タンパク質を作るための設計図が書かれている部分だけが選ばれてコピーされます。
- RNAポリメラーゼという酵素が活躍する ：この酵素が、DNAの情報を読み取り、RNAの鎖を作っていきます。
- 「A, T, G, C」の塩基が「A, U, G, C」に変わる ：DNAにはA（アデニン）、T（チミン）、G（グアニン）、C（シトシン）という4種類の塩基がありますが、RNAではTの代わりにU（ウラシル）が使われます。
この転写によって作られたRNAは、「メッセンジャーRNA（mRNA）」と呼ばれ、タンパク質を作るための設計図を運ぶ重要な役割を担います。
「翻訳」とは？RNAの情報をタンパク質に変える作業
次に「翻訳」です。翻訳は、転写で作られたmRNAの情報を元にして、実際にタンパク質を作り出すプロセスです。例えるなら、メモ帳（mRNA）に書き写された設計図を、工場（リボソーム）で読み解いて、具体的な製品（タンパク質）を作り上げる作業です。mRNAの塩基の並び（A, U, G, C）は、アミノ酸というタンパク質の材料の並び順を指定しています。この「コドン」と呼ばれる3つの塩基のまとまりが、特定のアミノ酸を指定する「言葉」になっているのです。
翻訳のプロセスも、いくつかの段階に分けられます。
- mRNAがリボソームに結合する ：細胞質にあるリボソームという場所で翻訳は行われます。
- tRNAがアミノ酸を運んでくる ：tRNAという別の種類のRNAが、mRNAのコドンに対応するアミノ酸を運んできます。
- アミノ酸が次々とつながっていく ：運ばれてきたアミノ酸は、リボソーム上で順番に結合していき、長い鎖（タンパク質）が作られます。
| コドン | アミノ酸 |
|---|---|
| AUG | メチオニン（開始） |
| UAA, UAG, UGA | 終止 |
この翻訳によって、生命活動に不可欠な様々な機能を持つタンパク質が作られるのです。
転写と翻訳の場所の違い
転写と翻訳の大きな違いの一つに、それが起こる「場所」があります。私たちの細胞の中には、「核」と呼ばれる部分があり、そこにDNAが保管されています。転写は、このDNAがある「核の中」で行われます。DNAからmRNAが作られるのは、核の中なのです。
一方、翻訳は、転写で作られたmRNAが核の外に出てきてから行われます。核の外には「細胞質」と呼ばれる広々とした空間があり、その中に「リボソーム」というタンパク質を作るための工場があります。つまり、翻訳は「細胞質」で行われるのです。
この場所の違いをまとめると、以下のようになります。
- 転写 ：核の中
- 翻訳 ：細胞質（リボソーム上）
この「核」と「細胞質」という場所の違いは、転写と翻訳が連続して、かつ正確に行われるために非常に重要です。
転写と翻訳の主な役割の違い
転写と翻訳は、それぞれ異なる役割を担っています。転写の主な役割は、DNAに書かれた遺伝情報を「一時的な形」で取り出すことです。これは、情報を複製して、安全に運び出すための準備段階と言えます。
一方、翻訳の主な役割は、その一時的な情報（mRNA）を「実際の形」、つまりタンパク質へと変換することです。タンパク質は、私たちの体の構造を作ったり、様々な化学反応を助けたり、病気から体を守ったりと、生命活動のほとんどを担っています。
それぞれの役割を簡潔にまとめると、以下のようになります。
- 転写の役割 ：DNAの情報をRNAにコピーすること
- 翻訳の役割 ：RNAの情報をタンパク質に変換すること
つまり、転写が「情報の伝達」、翻訳が「情報の活用」と言えるでしょう。
転写と翻訳の材料の違い
転写と翻訳では、使われる材料も異なります。転写では、DNAを鋳型として、RNAが作られます。RNAの構成要素となるのは、A、U、G、Cという4種類の「ヌクレオチド」です。
一方、翻訳では、mRNAの情報を元に、アミノ酸が次々と結合してタンパク質が作られます。タンパク質は、20種類ほどある「アミノ酸」が、特定の順番に並んだものです。
材料を比較すると、次のようになります。
- 転写の材料 ：ヌクレオチド（RNAを構成するもの）
- 翻訳の材料 ：アミノ酸（タンパク質を構成するもの）
RNAとタンパク質、それぞれ異なる「言葉」で書かれているのです。
転写と翻訳の「言葉」の違い
転写と翻訳では、それぞれが扱う「言葉」、つまり情報の単位も異なります。転写では、DNAの塩基配列（A, T, G, C）が、RNAの塩基配列（A, U, G, C）に書き換えられます。これは、文字を書き写すようなイメージです。
対して翻訳では、mRNAの3つの塩基の並び（コドン）が、1つのアミノ酸を指定します。これは、アルファベットの3文字で単語が表され、その単語が特定のものを示す、というような言語の変換に似ています。この「コドンの言葉」を理解してアミノ酸を並べるのが翻訳です。
「言葉」の単位をまとめると、以下のようになります。
- 転写の「言葉」 ：塩基配列（DNA→RNA）
- 翻訳の「言葉」 ：コドン（mRNAの3つの塩基）→アミノ酸
まさに、異なる言語を翻訳するような作業と言えますね。
転写と翻訳の「流れ」の違い
転写と翻訳は、一連の流れとして起こりますが、その「流れ」の方向性にも違いがあります。転写は、DNAの情報を「一方向に」読み取って、mRNAを合成していきます。これは、一本の糸をたどっていくようなイメージです。
一方、翻訳は、mRNAの開始コドンから終止コドンまで、「一方向に」読み進めながら、アミノ酸を順番に結合させていきます。こちらも、一定の順序で進んでいきます。
それぞれの「流れ」の特徴は以下の通りです。
- 転写の流れ ：DNAの特定部分を、決まった方向に読み取り、RNAを合成
- 翻訳の流れ ：mRNAを、開始から終止まで、決まった方向に読み取り、アミノ酸を結合
どちらも順番が重要であることがわかります。
このように、「転写 と 翻訳 の 違い」は、生命がどのようにして情報を活用しているのかを理解する上で、非常に重要なポイントです。DNAという設計図を、まずRNAという一時的なメモに写し取り（転写）、そのメモを元に、私たちの体を作るための部品であるタンパク質を作り出す（翻訳）。この二つのプロセスが、私たちの生命活動を支えているのです。これらの違いをしっかりと理解して、生命の不思議をもっと探求していきましょう！