「精神障害」と「知的障害」、どちらも「障害」という言葉がついていますが、その意味や原因、特性は大きく異なります。 精神障害と知的障害の違いを理解することは、お互いを尊重し、適切なサポートを提供するために非常に重要です。 この記事では、これらの違いを分かりやすく解説していきます。
精神障害と知的障害の根本的な違い
精神障害と知的障害の最も大きな違いは、その発生原因と、主に影響を受ける領域にあります。精神障害は、脳の機能の偏りや、ストレス、環境要因などが複雑に絡み合って生じることが多く、感情、思考、行動などに影響が出やすいのが特徴です。一方、知的障害は、生まれつき、あるいは発達期(おおむね18歳になる前)までに、知的な発達に遅れが見られる状態を指します。具体的には、物事を理解したり、学んだりする能力(知的機能)や、日常生活を送る上で必要なこと(身辺自立、社会性など)を身につける能力(適応機能)に遅れが見られます。
精神障害は、その種類によって症状が多岐にわたります。例えば、うつ病では気分の落ち込みや意欲の低下、統合失調症では幻覚や妄想、不安障害では強い不安感や恐怖感などが現れます。これらの症状は、本人の意思や努力だけではコントロールが難しい場合が多く、専門的な治療や支援が必要となります。 精神障害と知的障害の違いを理解することは、正しい診断と適切な支援につながります。
以下に、それぞれの障害の主な特徴をまとめました。
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精神障害
- 原因:脳の機能の偏り、ストレス、環境要因など
- 主な影響:感情、思考、行動
- 例:うつ病、統合失調症、不安障害、発達障害(ASD、ADHDなど※)
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知的障害
- 原因:生まれつき、あるいは発達期までの脳の発達の遅れ
- 主な影響:知的機能(理解力、判断力、学習能力など)、適応機能(日常生活スキル、社会性など)
- 例:ダウン症候群、レット症候群など(原因疾患によるもの)
※発達障害は、脳の機能の特性によるものですが、精神障害の中に含まれることもあります。その特性から、知的機能や適応機能に遅れが見られる場合もありますが、知的障害とは区別されることも多いです。
原因や発症時期による違い
精神障害と知的障害は、その原因や発症する時期にも違いが見られます。精神障害は、遺伝的な要因、脳の病気や傷、幼少期のトラウマ、慢性的なストレス、人間関係の問題など、様々な要因が複合的に影響して発症することがあります。そのため、発症時期も思春期、青年期、壮年期、高齢期と、人生の様々な段階で起こり得ます。
一方、知的障害は、染色体異常(ダウン症候群など)、遺伝子の異常、妊娠中・周産期の合併症(感染症、低酸素状態など)、脳の奇形、幼少期の重度の栄養失調や感染症など、脳の発達に影響を与える原因によって引き起こされることがほとんどです。そして、その特性は、おおむね18歳になる前、つまり発達期に現れます。 原因や発症時期の違いを把握することは、早期発見や早期支援の観点から重要です。
| 精神障害 | 知的障害 | |
|---|---|---|
| 主な原因 | 遺伝、脳機能、ストレス、環境など | 脳の発達の遅れ(染色体異常、遺伝子異常、感染症など) |
| 発症時期 | 人生の様々な時期 | 発達期(18歳まで) |
症状の現れ方の違い
精神障害と知的障害では、症状の現れ方が異なります。精神障害の症状は、その種類によって大きく異なりますが、一般的には以下のようなものが挙げられます。
- 感情面の変化 :気分の落ち込み、イライラ、不安、恐怖、興奮など。
- 思考や認識の変化 :集中力の低下、記憶力の低下、考えがまとまらない、現実離れした考え(妄想)や感覚(幻覚)など。
- 行動面での変化 :引きこもり、過剰な活動、無気力、自傷行為、他者との関わり方の変化など。
一方、知的障害の特性は、知的な機能と適応機能の遅れとして現れます。知的な機能の遅れとは、具体的には以下のようなことです。
- 新しいことを学ぶのに時間がかかる。
- 物事を理解するのに時間がかかる、あるいは理解が難しい。
- 抽象的な思考や複雑な問題を解決するのが苦手。
- 状況を判断したり、計画を立てたりすることが難しい。
適応機能の遅れとしては、日常生活を送る上で必要なスキル(身だしなみを整える、食事の準備をする、金銭管理をするなど)の習得に時間がかかることや、社会的なルールや人間関係の理解が難しいことなどが挙げられます。 症状の現れ方の違いを理解することは、本人の困りごとを正しく把握するために不可欠です。
診断方法の違い
精神障害と知的障害の診断方法にも違いがあります。精神障害の診断は、主に医師による問診や、心理検査、行動観察などを通じて行われます。本人の訴えや周囲の人の観察結果、過去の経歴などを総合的に判断し、国際的な診断基準(DSMやICDなど)に基づいて診断されます。脳の画像検査(MRIやCT)が行われることもありますが、精神障害の直接的な原因を特定するというよりは、他の病気の可能性を除外するためや、脳の状態を把握するために用いられることが多いです。
対して、知的障害の診断は、知能検査(IQテスト)と、適応能力を評価する検査を組み合わせて行われます。知能検査では、言語理解、知覚統合、ワーキングメモリ、処理速度などの領域を測り、おおむね70未満というIQの数値が目安となります。ただし、IQの数値だけで診断されるわけではなく、日常生活や社会生活を送る上で必要な適応能力(コミュニケーション、自己管理、学校や職場での活動など)にどの程度困難があるかも重要視されます。 診断方法の違いを理解することは、適切な支援を受けるための第一歩です。
| 診断方法 | 精神障害 | 知的障害 |
|---|---|---|
| 主な評価項目 | 感情、思考、行動、症状の程度 | 知的機能(IQ)、適応能力 |
| 主な検査 | 問診、心理検査、行動観察 | 知能検査(IQテスト)、適応検査 |
治療や支援方法の違い
精神障害と知的障害では、治療や支援の方法にも違いがあります。精神障害の治療は、その種類や重症度によって異なりますが、薬物療法、精神療法(カウンセリング)、リハビリテーションなどが中心となります。薬物療法は、症状を和らげたり、脳のバランスを整えたりするために用いられます。精神療法では、自分の気持ちと向き合ったり、ストレスへの対処法を学んだりします。また、社会生活に戻るためのリハビリテーションや、生活環境の調整なども重要です。
一方、知的障害のある方への支援は、本人の持っている力(強み)を活かしながら、日常生活や社会生活をより豊かに送れるようにサポートすることが目的となります。具体的には、個々の能力に合わせた教育や訓練、日常生活動作(食事、着替え、入浴など)の練習、コミュニケーションスキルの向上、就労支援、余暇活動の支援などがあります。 治療や支援方法の違いを理解することは、本人や家族が適切なサポートを受けるために役立ちます。
発達障害との関係性
「発達障害」という言葉もよく耳にしますが、これは精神障害の一つであり、知的障害とは異なる概念として捉えられることが多いです。発達障害は、脳の機能の生まれつきの特性によって、コミュニケーションや対人関係、行動、学習などに偏りが見られる状態を指します。代表的なものに、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)があります。
発達障害のある方の中にも、知的機能や適応機能に遅れが見られる方がいるため、知的障害と重複したり、診断が難しいケースもあります。しかし、発達障害は、一般的に知的な発達に遅れがない場合も多く、その特性が「障害」として認識されるまで時間がかかることもあります。 発達障害との関係性を理解することは、よりきめ細やかな支援を考える上で重要です。
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発達障害の主な特性
- ASD(自閉スペクトラム症) :対人関係やコミュニケーションの困難さ、興味・関心の偏り、こだわりなど。
- ADHD(注意欠如・多動症) :不注意(集中できない、忘れっぽい)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(思いつきで行動する)などの特徴。
発達障害の支援では、本人の特性を理解し、その特性を活かしながら、困難さを軽減するための環境調整や、具体的なスキルを身につけるためのトレーニングが行われます。例えば、ADHDのお子さんには、集中できる環境作りや、忘れ物防止のための工夫が有効です。ASDのお子さんには、視覚的な情報を用いたコミュニケーションの工夫や、安心できる環境作りが大切になります。
まとめ
精神障害と知的障害は、原因、症状、診断、治療・支援方法など、多くの点で違いがあります。どちらの障害も、本人やその家族が抱える困難は大きく、社会全体で理解とサポートを進めていくことが大切です。 精神障害と知的障害の違いを正しく理解することで、一人ひとりの特性に合った、より良い支援へと繋がっていくでしょう。