「傷病手当」と「傷病手当金」、似たような言葉ですが、実は意味が異なります。この二つの違いを理解することは、病気やケガで働けなくなった際の生活を支える上で非常に重要です。本記事では、傷病手当と傷病手当金の意味、そしてそれぞれの特徴について、わかりやすく解説していきます。
傷病手当と傷病手当金:基本から徹底解説
まず、大前提として「傷病手当」とは、病気やケガによって仕事ができなくなったときに、健康保険から支給される「埋葬料」や「出産手当金」など、様々な給付金の総称です。つまり、傷病手当は「手当」という大きなカテゴリーの中に含まれる、いくつかの給付金の一つということになります。 この関係性を理解することが、傷病手当と傷病手当金の違いを把握する第一歩です。
一方、「傷病手当金」は、この傷病手当という大きな枠組みの中でも、特に「病気やケガで働けなくなった場合に、生活費を補填するために支給されるお金」を指します。ですから、私たちが一般的に「病気で休んだときにもらえるお金」としてイメージするのは、この傷病手当金であることがほとんどです。
表にまとめると、このようになります。
| 傷病手当 | 病気やケガによって生じる経済的負担を軽減するために、健康保険から支給される給付金の総称 |
| 傷病手当金 | 傷病手当の具体的な給付金の一つで、病気やケガで働けなくなった場合に支給されるお金 |
このように、傷病手当は「箱」、傷病手当金はその「箱の中身」の一つと考えると分かりやすいでしょう。
傷病手当金の受給資格と申請方法
傷病手当金を受け取るためには、いくつかの条件を満たす必要があります。まず、健康保険の被保険者であること。そして、病気やケガのため、会社などを休み、連続して3日間以上休んでいることが条件です。さらに、働けない期間について、給与の支払いを受けていないことも重要です。
申請は、加入している健康保険組合や協会けんぽに、所定の申請書を提出して行います。申請書には、医師の証明や事業主の証明が必要となる箇所がありますので、事前に準備を進めましょう。
申請の流れは、おおよそ以下のようになります。
- 病気やケガで会社を休む
- 連続3日以上休んだ後、医師の診断書などを準備する
- 健康保険組合などに申請書を提出する
- 審査を経て、支給が決定される
申請には期限がある場合もありますので、早めの対応が肝心です。
傷病手当金の支給額はどのように決まる?
傷病手当金の支給額は、お給料を基に計算されます。具体的には、お給料の日額を、休んだ日数に応じて計算していきます。支給開始日以前の継続した12ヶ月間の標準報酬月額の平均額を30で割った金額の3分の2が、1日あたりの支給額となります。
計算式は以下のようになります。
1日あたりの支給額 = (標準報酬月額の平均額 ÷ 30) × 3分の2
もし、標準報酬月額の平均額がない場合や、12ヶ月に満たない場合は、直近の標準報酬月額が用いられたり、個別の事情が考慮されたりします。不明な点は、加入している健康保険組合に確認するのが一番確実です。
支給される期間は、病気やケガが治るまでの間ですが、最長で1年6ヶ月という上限があります。この期間内であっても、給与が支払われるようになったり、健康保険の被保険者でなくなったりした場合は、支給が停止されます。
傷病手当金と他の制度との違い
傷病手当金と似たような制度に、「雇用保険の失業等給付」や「労災保険の休業補償給付」などがあります。これらは、それぞれ支給される目的や条件が異なります。
例えば、失業等給付は、あくまで「離職」した際に、次の仕事を探すまでの間の生活を支援するためのものです。一方、労災保険の休業補償給付は、「業務上の事故」によってケガや病気をした際に支給されます。傷病手当金は、それらと異なり、 病気やケガそのものによって働けなくなった場合に、健康保険から支給される という点が大きな特徴です。
それぞれの制度には、以下のような違いがあります。
- 傷病手当金 :病気・ケガ(業務外)による休業、健康保険
- 失業等給付 :離職による求職活動、雇用保険
- 労災保険の休業補償給付 :業務上の事故による休業、労災保険
ご自身の状況に合わせて、どの制度が適用されるのかを正しく理解することが大切です。
傷病手当金をもらいながら働ける?
原則として、傷病手当金は「働けない」ことが前提の給付金です。そのため、傷病手当金を受給している期間中に、一部でも会社から給与を受け取っている場合は、傷病手当金は支給されません。もし、一部給与が支払われている状況で傷病手当金も受け取ってしまうと、不正受給となる可能性もあります。
ただし、例外もあります。例えば、傷病手当金の日額よりも、会社から支払われる給与の方が少ない場合は、その差額が傷病手当金として支給されることがあります。これは、少しでも生活を支えるための配慮と言えるでしょう。
もし、体調が回復してきたけれど、まだ完全に以前と同じように働けないという場合は、以下の点を確認してみてください。
- 会社と相談し、勤務時間を短縮したり、軽作業に変更したりできないか
- 変更後の給与額が、傷病手当金の日額を下回る場合は、差額が支給される可能性がある
いずれにしても、ご自身の状況を正確に把握し、必要であれば加入している健康保険組合に相談することが重要です。
傷病手当金と育児休業給付金、どちらが有利?
女性の場合、出産を機に傷病手当金と育児休業給付金のどちらを選択するか、あるいは両方に関連する状況になることがあります。出産による入院などで働けない期間が続いた場合、傷病手当金と育児休業給付金の両方を受給できる可能性がありますが、どちらか一方しか受け取れない場合もあります。
一般的に、育児休業給付金は、出産育児一時金などと組み合わせて、産前産後の期間の経済的な負担を軽減することを目的としています。一方、傷病手当金は、病気やケガによる休業を対象としています。
ここで注意したいのは、 傷病手当金と育児休業給付金は、原則として同時に受け取ることはできない ということです。もし、産前産後休業期間中に、傷病手当金と育児休業給付金の両方の支給要件を満たす場合でも、どちらか一方を選択することになります。どちらが有利になるかは、個々の収入や休業期間によって異なりますので、それぞれの制度の内容をよく確認し、ご自身の状況に合わせて判断することが大切です。
参考までに、それぞれの特徴をまとめます。
| 傷病手当金 | 病気・ケガによる休業、健康保険 |
| 育児休業給付金 | 出産・育児による休業、雇用保険 |
どちらの制度も、要件や金額の計算方法が複雑な場合がありますので、迷ったときは専門家や加入している保険組合に相談しましょう。
傷病手当金は確定申告が必要?
傷病手当金は、所得税法上、非課税所得とされています。つまり、傷病手当金として受け取ったお金は、収入としてカウントされないため、原則として確定申告をする必要はありません。これは、病気やケガで働けない方の生活を経済的に支援するという制度の趣旨に基づいています。
したがって、傷病手当金のみを受け取っている場合、その金額に対して所得税が課税されたり、住民税の計算に含まれたりすることはありません。これは、多くの方にとって安心できるポイントでしょう。
ただし、注意点もあります。もし、傷病手当金以外にも給与所得や不動産所得など、課税される所得がある場合は、それらの所得については通常通り確定申告が必要になります。また、傷病手当金を受け取ったことによって、年間を通しての合計所得金額が変わるわけではないため、医療費控除などの適用にも影響はありません。
まとめると、以下のようになります。
- 傷病手当金は非課税所得
- 原則として確定申告は不要
- ただし、他の課税所得がある場合は、そちらについては確定申告が必要
ご自身の所得状況を把握し、不明な点があれば税務署や税理士に相談することをおすすめします。
傷病手当と傷病手当金の違い、そして傷病手当金の詳細について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。病気やケガはいつ起こるか分かりません。万が一の際に、ご自身の権利をしっかりと理解し、活用していくことは、安心して生活を送る上で非常に大切です。もし、ご自身の状況について不安な点や疑問点があれば、遠慮なく加入している健康保険組合や会社の担当者に相談してみてください。