知っておきたい！浸潤癌と非浸潤癌の違いを分かりやすく解説

がんと診断されたとき、よく耳にする「浸潤癌」と「非浸潤癌」。この二つの違いは、治療方針や予後に大きく関わってくる、とても大切なポイントです。今回は、この「浸潤癌と非浸潤癌の違い」を、誰にでも分かりやすく、そして詳しく解説していきます。

がんはどこまで広がっている？浸潤癌と非浸潤癌の根本的な違い

まず、がん細胞は、もともとはその発生した臓器の表面（上皮）にとどまっています。しかし、がんが進行すると、この上皮の下にある組織へと、がん細胞が染み出すように広がっていくことがあります。この「染み出すように広がる」状態を「浸潤」と呼びます。つまり、「浸潤癌」とは、がん細胞がその発生場所から周囲の組織へ染み出して広がっている状態のがんのことです。一方、「非浸潤癌」は、がん細胞がまだ上皮にとどまっており、周囲の組織へは広がっていない状態のがんを指します。

この「浸潤しているかどうか」が、治療法や治癒の可能性を大きく左右するため、浸潤癌と非浸潤癌の違いを理解することは非常に重要です。 非浸潤癌は、早期に発見・治療できれば、多くの場合、転移や再発のリスクが低く、比較的良好な予後が期待できます。しかし、浸潤癌は、がん細胞が血管やリンパ管に入り込み、体の他の部位へ転移する可能性が高くなるため、より積極的な治療が必要になることが多いのです。

非浸潤癌の特徴：
- がん細胞が上皮内にとどまっている
- 転移のリスクが低い
- 早期発見・治療で治癒しやすい
浸潤癌の特徴：
- がん細胞が上皮の下の組織へ広がっている
- 転移のリスクが高まる
- 血管やリンパ管に入り込みやすい

非浸潤癌：まだ「巣」から出ていないがん

非浸潤癌は、がん細胞がまだ生まれた場所、つまり上皮という「巣」から出ていない状態のがんと言い換えられます。例えば、肺がんの場合は気管支の粘膜、乳がんの場合は乳管や小葉（乳腺の奥にある袋状の部分）の上皮にとどまっている状態です。この段階では、がん細胞はまだ自分たちの「巣」の中で増殖しているだけで、他の臓器へ飛んでいく準備はできていません。

がんの種類	非浸潤癌の例	浸潤癌への進行イメージ
乳がん	非浸潤性乳管癌（DCIS）	乳管の外へがん細胞が広がる
肺がん	非浸潤性気管支肺胞上皮癌（AIS）	肺胞の壁を越えて広がる
子宮頸がん	上皮内癌	基底膜を破って間質へ広がる

非浸潤癌は、非常に早期のがんと言えます。この段階で発見できれば、手術でがんの部分を取り切るだけで、多くの場合、完治が期待できます。定期的な健康診断やがん検診が、非浸潤癌の早期発見に繋がるのです。

非浸潤癌の治療のポイントは、がん細胞の「巣」からの拡散を防ぐことです。 そのため、手術でがんのある組織をピンポイントで切除することが中心となります。この手術は、浸潤癌の手術に比べて、体への負担が少ない場合が多いのも特徴です。

浸潤癌：冒険に出かけたがん細胞

一方、浸潤癌は、がん細胞が「巣」を飛び出し、周囲の組織へと冒険を始めてしまった状態です。まるで、迷子になった子供が、自分の家（上皮）から出て、知らない街（周囲の組織）を歩き回っているようなイメージです。この「冒険」が進むと、がん細胞は血管やリンパ管という「高速道路」を見つけ、そこからさらに遠くの場所（他の臓器）へと「旅」に出てしまうことがあります。これが「転移」です。

がん細胞が上皮を破る
周囲の結合組織や臓器実質に広がる
血管やリンパ管に侵入する
体の他の部位へ転移する

浸潤癌と診断された場合、治療はより複雑になります。なぜなら、目に見えているがんを切除しても、すでに転移してしまっているがん細胞が体の中に残っている可能性があるからです。そのため、手術だけでなく、抗がん剤治療や放射線治療などを組み合わせて、体中の見えないがん細胞も攻撃する必要が出てくることがあります。

進行度による違い：ステージングの重要性

がんの進行度を表す「ステージ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。このステージは、がんがどれくらい大きくなっているか、周囲の組織にどれくらい広がっているか（浸潤しているか）、そして他の臓器に転移しているか、といった情報を総合して決められます。浸潤癌と非浸潤癌の違いは、このステージングにおいて、非常に重要な要素となります。

一般的に、非浸潤癌はステージ0、あるいはごく初期のステージIに分類されることが多いです。対して浸潤癌は、浸潤の深さや範囲、転移の有無によって、ステージIからIVまで幅広く分類されます。ステージが上がるほど、がんは進行していると判断され、治療もより積極的なものになります。

ステージ0（非浸潤癌）： がん細胞が上皮内にとどまる
ステージI～II（早期浸潤癌）： がんが周囲組織にわずかに浸潤している
ステージIII（進行浸潤癌）： がんが周囲のリンパ節に広がっている
ステージIV（遠隔転移）： がんが他の臓器に転移している

ステージングは、患者さん一人ひとりに最適な治療計画を立てるための羅針盤のようなものです。 医師は、このステージングに基づいて、手術の範囲、化学療法、放射線療法などを決定していきます。

治療法の選択：浸潤と非浸潤でどう変わる？

浸潤癌と非浸潤癌では、治療法が大きく異なります。先ほども触れましたが、非浸潤癌の場合、がん細胞はまだ「巣」から出ていないため、その「巣」ごと取り除いてしまえば、がんを根治できる可能性が高いのです。そのため、比較的負担の少ない手術で済むことが多いです。

例えば、乳がんの非浸潤癌（DCIS）であれば、がんのある部分だけを切り取る「部分切除」や、乳房全体を摘出する「乳房切除術」が行われます。手術後は、放射線療法を併用することもありますが、化学療法（抗がん剤治療）が必要となることは稀です。

一方、浸潤癌の場合は、がん細胞が周囲組織に広がっているため、より広範囲の手術が必要になることがあります。また、がん細胞が血管やリンパ管に乗って全身に散らばっている可能性も考慮し、手術に加えて抗がん剤治療や分子標的薬、ホルモン療法などを組み合わせることが一般的です。これは、目に見えないがん細胞も退治し、再発や転移を防ぐためです。

予後（見通し）：希望に満ちた未来へ

「予後（よご）」とは、病気の今後の見通しのことです。浸潤癌と非浸潤癌では、この予後にも大きな違いがあります。非浸潤癌は、前述の通り、早期に発見・治療されれば、ほぼ完全に治癒し、通常の生活を送れる可能性が非常に高いがんです。

しかし、浸潤癌の場合、予後はがんの種類、進行度、患者さんの全身状態など、様々な要因によって左右されます。早期に発見され、適切に治療された浸潤癌であれば、予後は良好な場合も多いですが、進行して転移が見られるような場合は、予後が厳しくなることもあります。

がんの種類	非浸潤癌の予後	浸潤癌の予後（一般的な傾向）
乳がん	非常に良好（ほぼ完治）	ステージによるが、早期であれば良好
大腸がん	良好	ステージによるが、進行すると予後不良
肺がん	良好	ステージによるが、進行すると予後不良

最も大切なのは、早期発見・早期治療です。 浸潤癌であっても、初期の段階で発見できれば、治療の選択肢も広がり、予後も大きく改善されます。定期的な検診を受け、体の変化に注意を払うことが、希望に満ちた未来に繋がります。

まとめ：知っておくことで、より良い未来へ

浸潤癌と非浸潤癌の違いは、がんがどれだけ広がっているか、という点にあります。非浸潤癌はまだ「巣」にとどまっている状態、浸潤癌は周囲の組織へ広がっている状態です。この違いが、治療法や予後を大きく左右します。

今回解説した「浸潤癌と非浸潤癌の違い」について、少しでも理解が深まったなら幸いです。ご自身の健康について、そしてがんと向き合うための知識として、この情報を役立てていただければ嬉しいです。